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第六章

「何故我らを呼び戻されたのですか!?その理由をお聞かせ下さい、ゼノン様!!」

宮殿の大広間に、ヴェルゴールのいきり立った声が響き渡った。

ここは、世界地図上では、三日月島、とかクレセント島と呼ばれている、小さな大陸。
峻厳な岩山と荒涼たる台地ばかりが続き、その上、周囲を渦巻く海流に囲まれて、人々は容易に近づけず、「未知の大陸」「不毛の大地」などと恐れられている場所。

その島の中心部に、ひっそりと岩山に隠されるようにして、厳かにたたずむ宮殿があった。

シャルディが主(あるじ)様と呼び、忠誠を誓っている相手、ゼノンの住まう宮殿である。
そのゼノンにテレパシーで語りかけられ、あと少しのところでこの宮殿に呼び戻されたヴェルゴールは、悔しさのあまり歯軋りをした。

あと、もう少しだったのに!
たしかに竜は強い力を持っていたかもしれない。だが、聖女のほうはかなり弱っていたはずだ。隙を突けば、聖女を連れ去るチャンスが、あったかもしれないのに!

そう思うと、悔しさでいっぱいになる。無論、これはシャルディとて同じである。
この「小さな反逆」は、「聖女を連れて帰れ」という、ゼノンの命に忠実でありたいと思うが故の行動であったのだが。

ヴェルゴールは、目の前で腕を組んで立っている男―主であるゼノン―をじっと見つめて、言葉を待った。

スラリとした体格。黒髪に、切れ長の金色の目を鋭く光らせた、美しい人間の顔立ちの男。その顔立ちはある男に酷似していた。

だが、よく見ると、微妙に違う点がいくつか見受けられた。まずその耳。普通の人間とは違う、魔族によく見られる特徴的な耳朶が大きく先が尖った耳。そして口には鋭い牙。短いながらも、頭には角が見受けられた。

「三匹目の竜が目覚めたようだな」

ゆっくりとゼノンが言葉を紡ぎ始めた。

「残るはあと一匹…何も急くことはないと思ったのだ。急かすような命令をして悪かったな」

この言葉に、ヴェルゴールが慌てて取り繕った。

「あ、いえ、けしてそのような…」

「ここまできたら、聖女に残りの一匹を探させたほうが早いと思ったのだ。どうせ力を手に入れるなら、4匹の竜をそろえ、完全に能力を開花させてからのほうが、よほど効率的というもの。アルザスに先をとられて、聖女の力を奪われたくはなかったが故に、かような命を下したが…それよりも…」

「アルザスを潰しちゃったほうが早いんだよね?ゼノン様?」

更新日:2009-01-02 12:14:39

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