えー、近ごろは百年に一度の不景気だそうでいろいろたいへんです。

内定取消し、派遣切り、季節工の大量解雇なんてあたりまえ、世界一だなんて威張っていた大企業が、工場閉めちゃって、従業員全員のクビを切る・・・社員寮に住んでた者をその日のうちに追いたてる・・・クビのない者は気味が悪いから出て行けってんでしょうが、どうもひどいもんです。血も涙もない高利貸し並ですな。江戸時代に逆戻りしたようなありさまで・・・

こういう世の中で仕事があるというのは幸せなことでございます。

毎日仕事に追いかけられて、「忙しい、忙しい」といってる時が華でして・・・

しかしなかには忙しくてけっこうと言えない仕事があります。

甲「ウチはそろそろお手上げだ、仕事が回ってこないんだから。おタクはどうです？」

乙「おかげさまでずっとスケジュールが詰まってまして・・・3年先くらいまではこのまんま行けるかなと」

甲「おやじさん、あついのもう一杯。はい、どうも。へー、そうですか。それは忙しくてけっこうですな」

乙(あいまいに)「はあ、まあまあ」

甲「なんだよ、はっきりしないね。おタク、商売繁盛してんだろ？素直に喜んだらいいじゃないの」

乙「素直に喜べないんで・・・葬儀屋なもんですから」

甲「なんだい、葬儀屋か、そりゃあ人前じゃあ喜べねえな。で、どうして3年先までわかるの？」

乙「あの町この町に二重丸のお客様がおりまして・・・おかげさまでスケージュールが一杯で」

甲「おかげさま？誰のおかげさまなんだ。二重丸なんかつけるなよ。ホントーに」

乙「本命、対抗、穴、なんて申されてます」

甲「競馬じゃねえや。誰が申してるんだ、ふざけやがって」

乙「うちのご本尊で・・・えー、死神様です。赤鉛筆で〇や△つけるのが楽しみだそうで」

甲「いい加減にしろ、コノヤロ」

乙「旦那はまだゲートに入ってないんでご安心を」

甲「あたりめえだ。働き盛りの俺に二重丸つけられてたまるか」

乙「でもいずれお入りになります」

甲「キミの悪い野郎だな、ニタニタ笑いやがって。おやじさん、塩くれ、塩！」

乙「ワッ、そんなにふりかけないでくださいませ。あたしは塩が一番苦手なんです」

甲「ホントかよ。さてはてめえ、死神だな、チクショウメ、おやじさん、勘定はこの次だ、あばよ」

乙「逃げ出しましたよ、あのお客さん。冗談真に受けて・・・ところで旦那はお忙しいんでございますか？」

丙「ヒマです。ウチはヒマでけっこう」

甲「え？旦那も素直に喜べない口でございますか？うれしいですね。で、ご商売は何でございます？」

丙「消防です」