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 三十分後、一郎は玄関で警察官に頭を下げていた。
 「すみませんでした」

 警官が帰った後、二階の子供部屋の閉ざされたドアの前で「怒らないから出ておいで」と声をかけた。
 オドオドと出てきた五郎を「もうあんな事しちゃ駄目だよ」とたしなめた。

 五郎は一郎が逮捕されると思い、警官にビービー弾を連射したのだ。

 居間に戻ると三郎が「どういう事?」と母に詰め寄っていた。

 母はうるさそうに説明しだした。
 「そば屋のかみさんは五十歳なのに、二十三歳の娘と同じくらいド派手なパンティーをはいてるんだよ」

 小学生の四郎には大うけだ。

 母はフンッと鼻をならし「いいかい、母と娘の同じようなパンティーが一緒に干されていたのに、犯人は器用に三回も娘のパンティーだけを盗っていったんだ。だから交番に行っておまわりに言ってやったのさ。『娘の身内が犯人だ』って」

 母のにらんだ通り犯人は二十五歳の長男で盗んだパンティーをネットで売っていた。
 『一郎が怪しい』と噂を流したのも彼だった。

 警官は事件が解決した礼を言いに次郎の家に来ていたのだ。

 「あの野郎、ぶん殴ってやる」次郎は息巻いたがその必要は無かった。
 そば屋のおかみさんが息子をぶん殴ったからだ。

 平穏な毎日が戻ってきた。
 今日は五郎の五歳の誕生日で一郎はごちそうを作るのに大忙しだ。
 でも母はコーヒーを呑みながら夕刊を見ている。

 次郎は言った。「ピンチの時だけじゃなくて普段から兄貴の事、助けてやればいいのに」
 母はチラッと一郎を見て言った。
 「いいんだよ。楽しそうじゃないか」
 次郎は以前聞いた兄の言葉を思い出した。

 『家事も育児も楽しいよ、みんなが喜んでくれるから』

 母を見ながら、意外と母親してるじゃねーか、と思った。

 パーティーが始まり皆が料理に舌つづみを打っていると母が五郎に訊いた。
 「誕生日のプレゼント、何がいい?」
 
 「しまった」次郎ははじかれた様に立ち上がった。
 このところの騒動に気を取られて去年の様に五郎を洗脳する事を忘れていたのだ。
 凝視する次郎の視線をものともせず五郎は言った。

 「あのね・・」

 五郎が生まれて初めて父を見るのは二日後の事である。
 

更新日:2023-09-13 06:20:53

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