• 14 / 124 ページ
先ほどまで座っていた椅子にゼロは座り、カイルが出したお茶とケーキに手を付ける。
『さっきも話していたでしょ?シヴァのデータが更新されて、同居人が増えていた。ずっと一人だったのに突然誰かと暮らし始めるなんて不思議に思ってね。』
『ああ、それは。その…私が行き場所がなくて。』
カイルは何故か自分が森から来たことを隠した。
『ふうん、まあそういうこともあるね。君はまだ幼いし…。』
フォークでケーキをつつきながらゼロは視線を上げる。
『まだ幼い少年だ。けれどヴァンパイアなら美しくなる。シヴァのように。』
全てを見透かすような目にカイルは視線を逸らす。
『君のような子が売られて酷い眼にあったのを沢山見てきた。僕は医者だからね。希少種というのは怖い、秘薬になると聞くとそれを奪い取るんだ。目玉、舌、心臓…人の欲望は限りないね。』
『そんな酷いことが。』
『ああ、沢山ある。この間も妖精だとかで背中を切られてた。羽根が生えてくるはずだなんて言ってね…でもその子は妖精でもなんでもない普通の子供。背中を切られて神経をやられてね。』
ゼロは少し視線を下とすと悲しそうに微笑んだ。
『ニュースにならないだけ。いつもそうやって酷い目にあうんだよ。だから君のような子がシヴァの元で暮らすのはいいことだと思うよ。 』
『そうですね。』
『シヴァと暮らしていて不便はないかい?』
どこか医者のような口ぶりにカイルはふふと笑ってしまった。
『あ、すいません。なんだかお医者様みたいで。』
『僕は医者だよ、こう見えて高潔なエルフの医者だ。僕しかできないことなんて沢山あるからね。』
『エルフ…。』
『うん、シヴァに聞いていなかったかい?僕は昔からシヴァのことを知っているよ。』
カイルの反応に気付いてゼロはにこりと笑う。
『聞きたいなら話してあげるよ。どうだい?』
『…聞きたいです。』
『ふふ、シヴァと僕はね。随分前…そうだなまだ僕が医者になる前に出会ったんだ。エルフの医者は能力重視なんだけど、人間の世界では色々必要になってね。それで学校に通っていた。シヴァはそこにいてね…彼は詩人だったんだよ。』
『詩人?』
『そう、今もそうだと思うけど。その頃は色んな歌手に詩を書いていたんだ。なんていったっけな…彼の恋人もオペラ歌手でね、その人のために作ったものがとてつもなく売れてね。でも恋人は売れたらそれっきりになってしまったみたいだけど。』
『そんな…。』
『まあ、人生は色々あるからね。そのあとも色んな美しい人が彼の恋人として現れては、僕は嫉妬で狂いそうになったよ。なんでシヴァばかりもてるのかって。』
カイルが噴出すとゼロは眉をひそめる。
『酷いね、君も。』
『すいません、でもあなたは素敵だと思います。私はエルフを見たことがなかったんですが、エルフも美しいと思います。知的な顔をしているし。』
『カイル…君は素敵な人だねえ。』
ゼロがカイルに手を伸ばそうとした時、彼の手を大きな手が掴んだ。
『やめろ、触るな。』
シヴァが電話を終えて戻ってきたのか、カイルを自分の後ろに引き寄せる。
『お前はいつもそうだ。人のものを盗りたがる。』
『また、人聞きが悪いことを言わないでよ、シヴァ、ねえ?』
同意を求めるようにゼロはカイルに声をかける。
カイルは頷くとシヴァの服を小さく引いた。
『大丈夫ですよ。本当に大丈夫です。』
その言葉にシヴァは大きな溜息をつく。そっとシヴァの指がカイルの頬に触れた。
『大丈夫ではない。肝に銘じてくれないと困る。』


嵐が去った後のようにシヴァが椅子でうな垂れている。数時間前にゼロは帰ったものの、どっと疲れが出たのかシヴァは青い顔をして顔に手を当てている。
カイルは部屋から薄手の毛布を持ってくるとシヴァにかけた。
『ああ、すまん。』
『いえ、疲れましたか?』
『そうだな。奴が来るとドッと疲れる。』
『ふふ、楽しい人でしたよ。いろんなお話を聞けましたし。』
カイルは傍の椅子に腰掛けた。
『いろんな話?』
『ええ、その、昔の話?』
シヴァは顔に手を当てたままでカイルを見た。
『昔の…私の話か?』
『はい…いけませんでしたか?もし駄目なら忘れます。』
『いや、かまわない。それにどうやって忘れるんだ。』
ふふとシヴァが笑う。
『何を聞いたんだ?私も聞く権利はありそうだが?』
『えと…シヴァが昔詩人だったと。』
『ああ。それで?』
『その、当時の歌手の人に沢山詩を書いていたと聞きました。』
『うん。それから?』
『オペラ歌手の人にも書いたって…それがすごく売れたけど、その人はそれっきりになったと。』
カイルが話し終えるとシヴァは顔に置いていた手を少しずらした。
口元だけが見えるが動きそうにない。

更新日:2023-09-30 11:38:28

  • Twitter
  • LINE
  • Facebook