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レーゲンスブルクの朝

挿絵 423*312



朝、ユリウスは急いで屋敷を出たために手袋を忘れてしまった。
取りに帰るか迷ったが、ピアノのレッスンは午後からだし、これくらいの寒さなら大丈夫だろうと学校へ向かった。

学校の敷地内に入ると、寮から教室に向かうクラウスと出くわした。
「おはよう、クラウス」
「ああ、おはよう。今日もなんでこんなにクソ寒いんだ?」
会うなり文句を言っていたクラウスがいきなり手をつかんできた。
「え? え? なに」
「おまえ、指先が真っ赤だぞ。手袋もはめないで、ピアノ科の自覚はないのか?」
そう言って両手を彼の手で包み込まれ、
「はあー、はあー」
と息をかけられた。
そんなことをされた恥ずかしさで顔まで熱く感じ、俯いてしまった。


その様子を後から来たイザークが見て言った。
「クラウス。なに朝からイチャイチャしているんですか!」
「えっ」
びっくりして振り返るユリウス。
「えっ、俺は何も…ユリウスのいつもの白い指先が、寒さで赤くなっていたからだなあ…」
イザークの剣幕に押され、クラウスは説明し始めた。
「イザークの頑丈な手なら、これ位の寒さなら大丈夫だろ?でも、こいつの細っこい指ではしもやけになりそうで心配だったからつい…」


「はあーっ。本当にみんなユリウス、ユリウスって。他の人はともかく、クラウスあなたは僕のパートナーでしょう! 
もう少し労わってもらっても良いと思うんですが!」
いつになく強気な物言いをするイザークに対して、クラウスは不思議そうに言った。
「…どうした? 朝から酔っ払いか?」
「失礼な、あなたじゃあ無いんですよ」
どこまでも機嫌が悪いみたいだ。

ユリウスはイザークに向き直って聞いた。
「調子が悪そうだけど、大丈夫? 朝ご飯は食べたの?」
よく聞いてくれたといった感じでイザークが話し始めた。
「昨日クラウスが一日で編曲してこいって無茶なことを言うから、徹夜で考えてさっき出来上がった。だから朝食も時間がなく食べずに来たのに、クラウスときたら朝からここでイチャ…」
クラウスは思わず遮った。
「ああ、悪かった。本当に俺が悪かった。疲れていて機嫌が悪いのにな。すまん」
そう言ってクラウスは、イザークの頭を抱きしめて髪をわしゃわしゃと掻き回した。
「おーしおーし、良い子だ良い子だ」
「やめてください。僕は犬じゃありません」
そう言ってイザークは力一杯、両腕でクラウスの胸を押し除けた。

髪の毛がぐちゃぐちゃのまま、今度はユリウスに両手を包み込まれた。
「気が付かなくてごめんね。僕は手袋を忘れただけで、コートは着ている。イザーク、君はいつもマフラーだけなのに…」

ユリウスの白くて細い指。
ひんやり冷たい手に包まれているはずなのになぜか、手から全身へと火照っていく。
髪を直したいのに、なぜか手を放したくない。
どうしてだろう、男同士なのに。
僕は変なのだろうか?

ユリウスに手を握られて固まっているイザークを見てクラウスも思った。
イザークおまえの気持ちは分かるぞ。
俺だってこいつの手を見ると、思わず甲に口づけをしそうになる。
ガキの頃、お祖母様から挨拶の特訓と称して女という女全員メイドにいたるまで挨拶させられて、条件反射で出来るようになっていた頃じゃあるまいし。
思春期に男ばかりの所にいるせいで、欲求不満になっているのか?


一方ダーヴィトは三人の様子を教室から見ながら…

二人ともモヤモヤしているよね。本当のユリウスに気付けばすっきりするのに。僕は教えないからね、早く気付きなさい。

楽しんでいた。

更新日:2023-08-19 12:48:51

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