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鎮魂歌
黄昏時、とあるゴーストタウンのカフェで。放棄されてもう十数年も経ったであろうその街に、歌声が響く。
やがて、1台の装甲車がそのカフェへ付ける。降りてきたのは、サングラスを掛けた黒尽くめの男と、シュヴァルツ=ジェイドだった。シュヴァルツは店に入ると、そこにいた人物に声を掛ける。
「物好きだな。わざわざこんなところへ呼び立てるとは…」
「お前さんに気を遣ったつもりなんだがなぁ。ここまで追跡してくる奴もあるまいよ」
「それはお互い様じゃないのか?オリバー=ガブリエル。あんたが追放なんかされたお陰で、こっちはいい迷惑だ」
呆れたように椅子に掛け…ようとして、その脚が朽ちているのに気づき、シュヴァルツは眉を顰め、そのままテーブルに腰を下ろす。
その様子を眺めていたオリバーは、店の外にいる黒尽くめに目を留め、立ち上がる。
「ジョージか!久し振りだな、運転手か?」
「ああ、操縦兼補佐役だ。懐かしいが、まずは先に話を」
「へいへい」
オリバーはシュヴァルツの隣の席へ移る。
「それで、どうだった」
「ああ…残念ながら、あんたの言う通りだった。ヴァカンシーの一件は、トリ・ライブラの失態だ」
シュヴァルツは紙束をオリバーに渡す。オリバーが目を側めた。
「カーターか…そういやぁコイツ、俺の“声”も調べたがってたな」
「やはりな。その時はどうしたんだ?」
「断ったよ。流石に喉切らせてやる気にはならねぇんで…アレで懲りんとは」
「あぁ…」
シュヴァルツは額を押さえた…この言い振りだと、相当手酷く“断った”のであろう。オリバーはシュヴァルツへ目を移す。
「で?今度こそ懲らしめてやったんだろうな?」
「いや…生憎、手遅れだった」
「は?そりゃどういう…」
シュヴァルツは手振りで先を読むよう促し、答える。
「どういう訳か、彼らが俺より先に動いていてな…」
「俺より早く…か。どういう情報源だか」
資料に目を通し、オリバーは言葉を切る。暫し紙片を眺めていた後、楽しげな笑みがその頰に浮かんだ。
「へぇ…この小僧どもがね。やるもんだ」
「余程脅しつけられたようだ。暫くは温順しくしてるだろうが…」
「ん?叩き潰した訳じゃねぇのか」
「いや、話し合いでカタをつけたらしい。無傷ではなかったがな」
「…親父とは大分違った性分のようだ」
「俺も同じことを言った」
シュヴァルツとオリバーは、ほぼ同時に吹き出した。ひと頻り笑った後で、シュヴァルツが零す。
「カーターは、俺が見張っておく…俺が無事であれる限り、だがな」
「よせやい、お前さんに目ぇつけられたら、滅多なことはできやしねぇさ」
オリバーは勢いよくシュヴァルツの背を叩く。
「生きてくんだよ。お前も、俺も」
「…そうか」
シュヴァルツは、何処か諦めめいた表情を浮かべる…だが、少し嬉しげでもあった。
「そうだな。まだ、俺たちにもやるべきことはある」
「ああ。小僧どもに任せちゃおけねぇ」
オリバーは目を細め、椅子から立ち上がる。シュヴァルツはその視線を追った。
「…日が暮れるな」
「ああ。ここ2〜3日でピークは超えてるから、休んでていいぜ」
「いや、付き合おう」
数歩離れたところに佇んでいたジョージが、振り向いて頷く。シュヴァルツへの同意だろう。
「それじゃまぁ、久々のトリオと行きますか」
そう言って、オリバーは歌い始めた。
オリバー=ガブリエル。
アンデッドを浄化する、異能の喉を持つと言われる人物。
素行不良によりトリ・ライブラから登録抹消されて後、その足跡は知られていないが、アンデッドに襲われた居住区を気まぐれに救っては去っていくという噂は、未だ絶えない。
やがて、1台の装甲車がそのカフェへ付ける。降りてきたのは、サングラスを掛けた黒尽くめの男と、シュヴァルツ=ジェイドだった。シュヴァルツは店に入ると、そこにいた人物に声を掛ける。
「物好きだな。わざわざこんなところへ呼び立てるとは…」
「お前さんに気を遣ったつもりなんだがなぁ。ここまで追跡してくる奴もあるまいよ」
「それはお互い様じゃないのか?オリバー=ガブリエル。あんたが追放なんかされたお陰で、こっちはいい迷惑だ」
呆れたように椅子に掛け…ようとして、その脚が朽ちているのに気づき、シュヴァルツは眉を顰め、そのままテーブルに腰を下ろす。
その様子を眺めていたオリバーは、店の外にいる黒尽くめに目を留め、立ち上がる。
「ジョージか!久し振りだな、運転手か?」
「ああ、操縦兼補佐役だ。懐かしいが、まずは先に話を」
「へいへい」
オリバーはシュヴァルツの隣の席へ移る。
「それで、どうだった」
「ああ…残念ながら、あんたの言う通りだった。ヴァカンシーの一件は、トリ・ライブラの失態だ」
シュヴァルツは紙束をオリバーに渡す。オリバーが目を側めた。
「カーターか…そういやぁコイツ、俺の“声”も調べたがってたな」
「やはりな。その時はどうしたんだ?」
「断ったよ。流石に喉切らせてやる気にはならねぇんで…アレで懲りんとは」
「あぁ…」
シュヴァルツは額を押さえた…この言い振りだと、相当手酷く“断った”のであろう。オリバーはシュヴァルツへ目を移す。
「で?今度こそ懲らしめてやったんだろうな?」
「いや…生憎、手遅れだった」
「は?そりゃどういう…」
シュヴァルツは手振りで先を読むよう促し、答える。
「どういう訳か、彼らが俺より先に動いていてな…」
「俺より早く…か。どういう情報源だか」
資料に目を通し、オリバーは言葉を切る。暫し紙片を眺めていた後、楽しげな笑みがその頰に浮かんだ。
「へぇ…この小僧どもがね。やるもんだ」
「余程脅しつけられたようだ。暫くは温順しくしてるだろうが…」
「ん?叩き潰した訳じゃねぇのか」
「いや、話し合いでカタをつけたらしい。無傷ではなかったがな」
「…親父とは大分違った性分のようだ」
「俺も同じことを言った」
シュヴァルツとオリバーは、ほぼ同時に吹き出した。ひと頻り笑った後で、シュヴァルツが零す。
「カーターは、俺が見張っておく…俺が無事であれる限り、だがな」
「よせやい、お前さんに目ぇつけられたら、滅多なことはできやしねぇさ」
オリバーは勢いよくシュヴァルツの背を叩く。
「生きてくんだよ。お前も、俺も」
「…そうか」
シュヴァルツは、何処か諦めめいた表情を浮かべる…だが、少し嬉しげでもあった。
「そうだな。まだ、俺たちにもやるべきことはある」
「ああ。小僧どもに任せちゃおけねぇ」
オリバーは目を細め、椅子から立ち上がる。シュヴァルツはその視線を追った。
「…日が暮れるな」
「ああ。ここ2〜3日でピークは超えてるから、休んでていいぜ」
「いや、付き合おう」
数歩離れたところに佇んでいたジョージが、振り向いて頷く。シュヴァルツへの同意だろう。
「それじゃまぁ、久々のトリオと行きますか」
そう言って、オリバーは歌い始めた。
オリバー=ガブリエル。
アンデッドを浄化する、異能の喉を持つと言われる人物。
素行不良によりトリ・ライブラから登録抹消されて後、その足跡は知られていないが、アンデッドに襲われた居住区を気まぐれに救っては去っていくという噂は、未だ絶えない。
更新日:2023-06-24 19:49:05