• 9 / 19 ページ

ゆり拓ゆい〜マルチエンドその1:拓ゆり編〜

「その女は、妹をその手で殺し、父を身代わりにして殺した」

 壊れゆく世界で、アニマーンはそう言った。

「だが彼女はその辛い過去を、仲間たちとの絆で乗り切り、そして時間をかけて癒していた」

 集合住宅の窓の外、空はすでに青さを失い、ドロドロとした闇が渦巻いていた。

「月影ゆりは、目の前の日常を見つめ、その先を未来を見据え、過去を振り切ろうとしていた」

 渦巻く闇空の下、街並みが砂像のように崩れていく。その合間に浮かんで、アニマーンは叫んだ。

「お父さんと私を殺した、その罪悪感を忘れようとした!」
「だから、俺たちにこんな真似をさせたのか!?」
「私たちのことを思い出させてくれてありがとう! 月影ゆりは一生苦しむ姿が似合う。そう思うだろう!?」
「ふざけるな! 人を地獄に突き落として、何が愉しい!?」
「突き落としたのはお前さ。品田拓海!」
「ッ!?」

 知らなかった。そんなつもりじゃなかった。全部貴様のせいだ。
 そう言いたかったのに、俺は声が出せなかった。
 だって、本当は気づいていたんだ。ゆりさんが俺たちに両親の愛情を求めていたのは、現実でそれが与えられなかったからだって。
 それをわかっていながら、見ないフリをして彼女に現実を突きつけた。

 俺のせいだ。

「拓海!」

 ゆいの声にハッとして振り返った。
 俺のいるベランダと、ゆいとゆりさんがいるリビングの間の床に深い亀裂が走っていた。
 ベランダが傾き、俺は転びそうになって咄嗟に手すりにしがみついた。
 一方リビングでは、ゆりさんが虚な目をしながら立ち上がっていた。

「ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……」
「ゆりさん、待って!」

 ゆいが制止するが、ゆりさんの足下が崩れ落ちた。
 瞬間、全てがスローモーションに見えた。
 瓦礫と共に奈落の底へ落ちていくゆりさん、そのゆりさんに手を伸ばそうとして自らも落ちかけようとするゆい。
 引き伸ばされた時間の中で、俺の背後からアニマーンが言った。

「選べ、品田拓海。和実ゆいを助けて共にこの世界から立ち去るか、月影ゆりを助けてこの世界に留まるか、選べ!」

 その言葉と共にスローモーションが解けた。

 俺は──



【ルート分岐】

・ゆいを助ける
・ゆりを助ける。



・ゆりを助ける。◀︎



 俺はベランダを飛び出した。
 そして落下していくゆりさんの腕を掴んだ。
 だけどすぐに振り返って、ゆいにも手を伸ばす。

「ゆい!」
「拓海!」

 ゆりさんと共に引きずり落とされそうになった俺の手を、ゆいが掴み──


──掴み損ねた。


 一瞬の出来事だった。
 ゆいの手が空を切ると同時に、俺は瓦礫に呑まれるように、ゆりさんと共に階下へと落下した……


……

………

…………目覚まし時計が鳴った気がして、俺は目を覚ました。

「夢、か……」

 身体を起こす。
 そこは自分の部屋だった。
 カーテンの向こうはまだ暗い。夜明け前だろうか?

「あれ?」

 ベッド脇に置いてあったはずのスマホが無い。
 てっきりスマホのアラームが鳴ったと思ったのだけど、おかしいなと思いつつ、とりあえず起きてリビングへと向かった。
 リビングの扉を開けると、同じ間取りにあるキッチンで、背の高い女性が朝食の用意をしていた。
 その背中には見覚えがある。すぐに思い出し、俺は声をかけようと口を開いた。

「ゆりさ──」
「あ、お父さん。おはようございます」

 俺が声をかけるよりも早く、彼女:月影ゆりが振り返って、朝の挨拶をくれた。

「あ、あぁ…おはよう」
「もうすぐご飯ができるから、少し待ってて。あ、そうだ。ツバサも起こしてもらえますか?」
「ツバサ?」
「あの子、昨日も遅くまで模型を作っていたみたいで……放っておいたらまた遅刻してしまうわ」
「ああ……」

 そうだ。長男のツバサが最近、航空工学にハマって毎日のように飛行機模型を自作しているのを、ゆりは心配していた。 

 ……ゆりは、ツバサの姉?

 思考にモヤがかかったような気分だ。違和感があるのに正体が分からない。
 立ち尽くして悩む俺の耳に、赤ん坊がぐずる声が聞こえた。

「えりゅぅ〜う〜!」

 そちらへ顔を向けると、リビングの片隅にベビーベッドがあった。

「姉さんも起きたみたいね」

 ゆりもキッチンから振り返っていた。

「姉さん?」
「ご機嫌斜めみたい。お父さん、オムツを替えてあげて」
「あ……わかった」

 そうだった。この子は俺の娘で長女のエルちゃんだ。
 そしてゆりは、エルの妹、その弟がツバサ……。
 エルちゃんのオムツを替えやると、彼女は嬉しそうな笑顔を見せた。

「える〜、ぱあぱあー♬」
「あははは、エルちゃんご機嫌になったな。じゃ一緒に寝坊助を起こしに行くか」
「えるっ!」

更新日:2023-05-09 12:02:50

  • Twitter
  • LINE
  • Facebook

ゆり拓ゆい(某掲示板への投稿SS)