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マルチエンドその2〜拓ゆい編〜

 遠いところから誰かがせせら笑っている。

──お前が望むなら、何度だってやり直させてあげるよ。

──ただし、何度でもバッドエンドだけどね? あはははははは!

 それでも良い。俺は願う。本当に大切な、掴みたい絆を結び直すためなら、何度でも、どんな結末でも構わない!

──なら、リトライだ。




「拓海!」

 ゆいの声にハッとして振り返った。
 俺のいるベランダと、ゆいとゆりさんがいるリビングの間の床に深い亀裂が走っていた。
 ベランダが傾き、俺は転びそうになって咄嗟に手すりにしがみついた。
 一方リビングでは、ゆりさんが虚な目をしながら立ち上がっていた。

「ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……」
「ゆりさん、待って!」

 ゆいが制止するが、ゆりさんの足下が崩れ落ちた。
 瞬間、全てがスローモーションに見えた。
 瓦礫と共に奈落の底へ落ちていくゆりさん、そのゆりさんに手を伸ばそうとして自らも落ちかけようとするゆい。
 引き伸ばされた時間の中で、俺の背後からアニマーンが言った。

「選べ、品田拓海。和実ゆいを助けて共にこの世界から立ち去るか、月影ゆりを助けてこの世界に留まるか、選べ!」

 その言葉と共にスローモーションが解けた。

 俺は──



【ルート分岐】

・ゆいを助ける
・ゆりを助ける。



・ゆいを助ける。◀︎



 ゆいが、自分の身を顧みずにゆりさんへ手を伸ばそうとしているのを見て、俺はベランダから飛び出した。

「やめろ、ゆい!」

 彼女の体に抱きつき、崩れそうなリビングから、まだ無事な玄関へともつれあうように転がり込んだ。

「拓海、ダメ! ゆりさんが!?」

 ゆいが泣きそうな声で叫びながらリビングへと手を伸ばしていた。
 その先で、ゆりさんの姿が奈落の底へと消えていく。

「ゆりさん! いやぁああああ!?」
「大丈夫だ! ゆい、落ち着いてくれ」

 俺は絶望的な表情を浮かべるゆいを強く抱きしめた。

「離して! このままじゃゆりさんが死んじゃうよ!」
「大丈夫だ、ゆりさんは死んでいない。俺たちがここから出れば、ゆりさんは助かるんだ!」

 そんな出まかせを言いながら、俺はゆいを抱いて玄関から外へ飛び出した。
 五階建て集合住宅の全体が大きく揺れていた。俺は壁に体をぶつけながら、ゆいを抱きかかえて階段を駆け降りた。
 何度か足を踏み外し、その度にゆいの体を庇って背中から段差に叩きつけられる。

「拓海…ッ!? 拓海ッ!?」

 俺の身を心配するゆいの泣き顔を、強く胸に押し付けるように抱きしめた。
 ここにゆいが居る。それだけで良い。

──俺は、もう、それしか望まないから……

「──っはぁ! はぁ……っ!」

 息も絶え絶えになりながら、アパートの外までたどり着いた。
 その背後で、コンクリート製の建物が砂像のように崩れ落ちていく。
 降り注ぐ瓦礫は他に落ちる前に光の粒子となって音もなく空に消えて、やがて最初から何も無かったように、そこには空き地が広がっていた……


 いつもの見慣れた我が街の景色。
 帰ってきたんだ。元の世界に……
 それなのに、傍のゆいの顔は涙に濡れていた。

「ゆりさん……ゆり……!」

 ボロボロと涙を溢す彼女を抱き寄せた。

「ゆりさんは生きているよ。きっと……」
「でも……でもどこで!?……ここに居ないよ……ッ!」

 俺は彼女の肩を掴み、正面を向かせた。

「ゆいのせいじゃない。悪いのは……アニマーンなんだ! だから泣くな……頼むから……」
「……っぐ……ひぐ……ッ……ごめん……ごめんね……」

 俺の胸の中で嗚咽を漏らし続ける彼女を、俺はただひたすらに強く抱きしめ続けた。


 帰宅すると、俺たちの親はいつもと変わらない様子で迎えてくれた。
 あの仮装世界に何ヶ月も閉じ込められていた気がするのに、カレンダーを見ると、俺たちが囚われたあの日からたった数時間しか経っていなかった。
 全てはおかしな夢を見ていたに過ぎなかったんだ。
 俺はそう思って納得しようとしたけれど、階段から転げ落ちたときの体の痛みはまだ残っていて、そしてそれ以上に、ゆいの心も傷ついていた。
 その日の夜、俺は彼女の身を不安に思い、窓から隣の和実家に目を向けた。
 そんな俺の視界に、夜の暗がりに紛れて、庭先から外へ走り出そうとしていたゆいの姿を見つけた。

「ゆい!?」

 俺は思わず自分の部屋の窓から飛び出していた。
 俺の部屋は二階にあって、おまけに裸足だ。ブラックペッパーに変身もしていない生身の状態で数メートルの高さから飛び降りた衝撃に足が痺れてバランスを崩して転びそうになったが、なんとか堪えた。

更新日:2023-05-09 12:20:06

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ゆり拓ゆい(某掲示板への投稿SS)