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花粉症

パート30レス176


「どうした品田、顔が赤いぞ?」


 寒さも和らいできた三月のある日、いつもの登校途中に出くわした菓彩から、顔を見るなりそう言われた。


「花粉症で熱っぽいんだよ。…ッくし」
 

 答える側からくしゃみが出る。
 というか、この季節にマスクをつけているんだから、問うまでもなくわかりそうなモノだ。

 …ックシ


「……ふふ」


「なんだよ、人の顔見て笑って」

「いいや、品田がそうやって瞳に涙目を潤ませている顔をしてるのは珍しくて、つい…な」

「笑いごとじゃねーっての。マジで辛いんだぞ。……っていうかお前までそんなこと言うんだな」

「私まで?」

「ゆいも毎年、同じ理由で笑うんだよ。普段と違う顔するから面白いとかなんとかさ」

「……ふぅん、そうか。……少し残念だな」

「残念だ?」

「品田の新しい顔を見れたと思ったのに、やっぱりゆいには追いつけないと思って…な」


 その声はどこか控えめで、小さくて、いったいコイツがどんな顔をしてそう言ったのか気になったけれど、その時吹いた風が花粉を運んだせいで、俺の視界は滲んでまともに前が見えなくなってしまった。


「品田、そろそろ校門だぞ」


 いつもの、落ち着いた声に戻ってあいつが言う。


「目が痒くて開けてらんねぇよ。先に行け」

「それでは遅刻してしまうな」


 不意に手を取られて引っ張られた。


「お、おい」

「さあ、走るぞ。私に任せておけ……ふふ、どうした品田💕顔が赤いぞ💕」

「う、うるせー!」


 菓彩に手を引かれ、俺たちは高校の校門を通り過ぎる。



 そんな俺たちの様子に機嫌を良くしたのか、菓彩の胸に抱かれた赤ん坊が上機嫌に「えるぅ♬」と笑った。

更新日:2023-04-29 00:30:40

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