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真・魔道真子3『雅室での照会』


寒室の戸を叩く音に気付き、藍曦臣が開けると
そこには久しぶりに見る弟がいた。

「忘機…清談会以来だ。どうした?」

とりあえず中へと招き、
座卓に座らせる。

「零夢を紹介しようと思っていたが…
 生憎今は少し外に出ている。
 すぐ戻るだろう」

「兄上、
 そのことでお話があります。
 成り行きで助けたと子弟から伺いましたが
 異国の子供をなぜ自室に留め置いているのですか…」

当然飛んでくるであろう疑問だった。
藍曦臣は弟の前に淹れた茶を置く。

「あの子は異国で一人、
身寄りも無く、目的まで失っている。
もし簡単に思い出せずとも手伝ってやることくらいはできる筈だ。」

「…それ以上に特別な理由は無いと?」

藍曦臣は茶を啜る手を止めて弟の追及から目を逸らすことはできないと悟った。

「……忘機、十七年前に金鱗台で私に言ったことを覚えているか?
 君は…危うい立場である魏公子を匿いたいと望んだ。
 相手の立場を気にかけるきっかけや経緯こそ違うが…
 おそらくその気持ちと大きな差は無い」

「……」

どこまでその心情を同義とするかは計り知れない。
藍忘機は黙り込んだ。
確かに当時、他の世家の者からすれば
魏無羨を擁護する自分は同様に見えたのかもしれない。
だが魏無羨の人となりや志は自分だけが理解していた。

「どうしても本人に確かめたいことがあるならば
 紹介も兼ねて時間を取ろう。あの子は人見知りが強い。
 誰も挟まずに心を開かせるのは困難だろう。
 明日ならば私も時間が取れる。
 忘機も明明後日の夜狩まで予定は無なかったな」

静かに藍忘機は頷く。

「未の刻…雅室に魏公子も連れてきなさい」

「……承知しました」

紹介が遅れたとはいえ急に弟が藍曦臣の同居人に
興味を抱いてわざわざ訪ねてくるとは考えにくい。
ならば魏無羨の興味の範疇で動いているのだろうと
藍曦臣は察していた。

やはりどこか読みで一歩敵わないと感じながら藍忘機は寒室を出た。
正にその時その人見知りの子供に迂闊にも
無遠慮に話しかけてしまった魏無羨がいたのだが。


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魏無羨と藍忘機は静室で情報を擦り合わせた結果
お互いにそこまで大きな収穫は無く、
ただ魏無羨は零夢の警戒を強めてしまったことだけを告げた。

収穫といえば藍忘機が話す機会を得られた事だろう。

「流石藍湛!事を運ぶのが上手いな!
 沢蕪君の了解がすんなりと得られるとは…
 ただこっちを任せなくて正解だったよ。
 あの零夢ときたら随分と人見知りな上に
 こちらの言葉も通じているかわからない。
 仮に言葉の足りない藍湛と二人になんかしたら
 気まずさでウサギも凍りついちゃうかもな」

「…そうか」

魏無羨は天子笑を煽ると軽い調子で笑い飛ばす。
どうやら遊歴を繰り返す身の上としては雲深不知処に
意外なエッセンスを盛った零夢は好奇心の対象であることに
相違ないらしく、藍忘機の道呂はここ最近で一番上機嫌であった。

更新日:2023-03-19 19:55:08

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