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真・魔道真子5『笛と三度目の召喚』

そこから一週間ほど、仙督である藍忘機と
宗主である藍曦臣はほとんど毎日夜狩と
仙門への依頼で出突っ張りであった。

その間は時間を持て余した夷陵老祖こと魏無羨が
昼間には零夢を遊びと称して連れ出しては
裏山に入り込んで仙門の知識を教えたり
東瀛でのことを聞いたりして過ごしていた。

「そうだ、零夢にこれをやるよ」

川辺の岩の上に座っている時、
魏無羨は懐から取り出したそれを零夢に渡した。

「わ…綺麗な笛…」

流麗な蒼の紋様が入った小さな横笛

「高麗笛だ。これなら零夢の細い指でも使える、
 音も高くて遠くまで響くぞ?
 声変わりもしてない零夢の声みたいだな」

茶化し出した魏無羨に対して反応も出来ずに
零夢は笛に見惚れた。

「これ、まさか羨兄君が…?」

「あ、ああ…調べたら東瀛の楽器にもこういうのが
 あるらしいって文献にあったから真似して
 作ってみた」

そう言って自分の陳情をくるくると回す。
「…ありがとう…」
川の水面の反射が全て映り込むほどに目を潤ませた。

「…そんなに喜ばれると思ってなかったな」

魏無羨は想定以上の反応に
こそばゆいとばかりに鼻を掻く。

「藍氏みたいに琴を持ち歩くハメになったら
 大変だろ?弦殺術まで叩き込まれちゃうぞ?
 だったら軽くて高い音の笛で清心音でも
 吹いた方がずっといい!
 霊力の調整もしやすいぞー?」

「曦臣にも洞簫の裂氷があるし…これでお揃いだ」

「なっ!?そこはこの『夷陵老祖』様と
 お揃いだって喜ぶとこだろ!?」

「ふっ、ふへへ」

「こいつめ 俺との兄弟笛を喜ばないなら返せ!」

「やだやだー!いっぱい練習するから取らないで!」

魏無羨が奪おうと追い、零夢が逃げて、
互いに転げ回る。
ようやく見せた零夢の笑顔から先日の陰りは
消えていた。

それから4日間は朝から夕までみっちりと
笛の練習に明け暮れた。
魏無羨に教わったり清心音や破衝音を吹いて
霊力の調整も行えるようにする。

笛の印に藍曦臣のくれた玉佩を付けた。

5日目には魏無羨すら舌を巻いた。

「上達速度が尋常じゃない!
 覚えが早いな。渋くていい音だ」

「もしかしたら昔やったことがあるのやも」

「昔?」

「ああ…ずっと前のことで、きっと幼かったから
 うろ覚えなんだね」
歯切れが悪そうに答える。
言われてみれば子供の言う『昔』などたかが
知れていてせいぜい幼い頃でしかない。

「ふーん…確かに経験があるのと無いのとじゃ
 雲泥の差だ。そうだ…名前は決めたのか?」

零夢は静かに首を振る。
「…まだ」

「武器や楽器なんかは霊力も宿るから持ち主が
 つけるといいぞ。俺の笛は『陳情』今は
 持ち歩けないが仙剣は『随便』だ」

「ふふ…何度聞いても笑っちゃう…」
零夢は膝を抱えた袖に突っ伏して堪える。

「な?良い名前だろー!?
 昔藍湛に言った時は「ふざけてる」って
 呆れられたけどな!
 …まぁ気に入ったのを付けるといい」

気付けばいつの間にか毎日連れ出されていて
魏無羨とはすっかり仲良くなっていた。
藍氏子弟達の居る欄室の近くを通れば

「あの異国の子供、宗主以外と居るように
 なったと思えば魏先輩だと!?」
などという囁きさえ聞こえるようになった。

(曦臣が連れ出していいって言い出した時は
 根掘り葉掘り色々聞き出されて
 舎弟にされると思ってたけど)

零夢には初期印象として姑蘇藍氏お抱えの
頭のキレる不良先輩…という雰囲気の存在に
見えていたらしい。

「沢蕪君にもらった佩も付けてるんだな。
 色が合っていて良かった
 そういえば沢蕪君は何か言ってたか?」

青い房の付いた白磁の竜胆を象った玉佩は
高麗笛に清涼な印象を与えていた。

「…う…」

思わず気まずそうな反応をしてしまう。
零夢は数日前、魏無羨に貰ったと報告して
見せた時に試しに吹いてもらった時のことを
思い出した。

『高くて音に神秘的な深みがある…
 なるほど…これを意図したのだとしたら
 流石魏公子だな…確かに零夢そのものだ』

「って…」
零夢は何ともむず痒いと頬を赤くして伝えた。

「あっはっは!沢蕪君は本当に天然の
 人タラシだな!
 言われてみれば確かにその通りだ…!
 どうせ顔色ひとつ変えずに
 感心してそう言ってたんだろう?
 容易に目に浮かぶな!」

「ウン…」

魏無羨は草むらの上を腹を抱えて転げ回り、零夢は
更に沈黙して頬を赤くした。

更新日:2023-03-26 02:23:03

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