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真・魔道真子4『目的の追及』

日が暮れはじめる酉の刻に魏無羨と藍忘機は
寒室を訪ねた。

「兄上…失礼する」

「忘機、魏公子…いらっしゃい
 夕餉を運ばせておいた。
 日没まで時間がある、ゆっくりしていてくれ」

「沢蕪君…ありがとう。こいつは助かる。
 俺は天子笑と蓮の実を持ってきたぞ
 …あれ?零夢は?」

既に飲む気満々といった魏無羨は零夢の姿を探す。

「さっきまで弟子が来ていたからね。
 裏庭だろう。魏公子、呼んできてくれないか?」

「わかった」

どうやら未だ姑蘇藍氏の門弟には
馴染めないらしい。
裏庭を覗くとぽつんと椅子に座り椿を見ている
小さな背中があった。

「またウサギと話をしてるのか?」
「あ、魏公子…いらっしゃい」

零夢は慣れた動作でで即座に翻訳を起動して
向き直ると拱手する。

「そんな改まるなってば
 昨日も昼間もあんなに話したじゃないか
 魏先輩とか…いや、冗談だよ
 羨兄でもいいぞ?もう友達だろ?」

普段の砕けた態度で微笑んだ。
意外なことにその手にはウサギではなく
何か木を彫ったようなものが見える。
「何か作ってたのか?」

「…こういうのは“彼”じゃないから
 あんまり得意じゃないんだけど…
 思追と景儀に…
 …助けてもらったから、その、お礼に」

”彼“とはどうやら話していた
『もう一人の自分』とやらの事らしい。
徐々に声の小さくなる零夢に魏無羨は柔らかく
微笑んだ。
義理堅くどこか不器用な様子は
自分が絶対に死なせまいとして傀儡に
してしまった友人を思い出す。

「思追も景儀も弱きを救う姑蘇藍氏の修士だ。
 何も気にしちゃいないだろうけど、
 その気持ちだけでも充分喜んでくれるさ」

「…うん」

はにかんで頷くその姿は姑蘇藍氏の白が
とてもよく馴染んでいた。

寒室の左側には衝立で区切られた零夢の使う
座敷があり、窓際には床榻まで用意されている。
だがその新しい床榻には物が置かれていて、
使われている形跡がないのを藍忘機は視界の
端に捉えた。

「…随分と…惜しまず世話をしているようですね」

「はは、確かに忘機よりは手がかからないというと嘘になるな。」

兄に対してとは言えど、藍忘機は魏無羨ほど
聴き出すことには長けておらず、更に深く
追及できるほど無粋でもないが故にそれ以上の
事柄について問うのを諦めた。
全てを明らかにしてはいないと感じてはいるものの、
やはり二人の関係が今ひとつ掴みきれない。

「連れてきたぞ」
そこへ魏無羨が零夢を連れて戻ってくる。

「おかえり、先に夕餉にしようか」

そのまま和やかに食事となった。

無羨「おいおいもういいのか?
   そんな少ない量じゃ背が伸びないぞ少年」

曦臣「零夢はあまり食べないけど
   菓子は大好きだな」

零夢「…すき」

無羨「なんだ沢蕪君は随分甘やかしてるんだな?
   宗主がそれじゃ弟子達に示しが
   つかないんじゃないか?

忘機「…食うに語らず」

無羨「カタいこというなよ。今日くらい良いだろ?
   あ、じゃあ蓮の実なんかどうだ?」

零夢「食べたこと無いかも」

無羨「美味いぞ?ほらこうやって剥くんだ」

零夢「花は見たことあるけど 実は初めて見た」

無羨「零夢の故郷にもあるんだな!
   お?…そういえばこの上等な簪も
   此処に来てから沢蕪君が買ったのか?
   この髪はどうしてるんだ?」

零夢「僕は慣れないから曦臣が結ってくれてる」

曦臣「零夢の髪は独特な光沢と艶をしているので
   飽きないんだ」

忘機「……」

無羨「へぇそうか。うん、似合ってるな」

(その簪だと祇女か男娼に見えなくもないけど…
素材(顔立ちと肌の色)のせいだなきっと…)

魏無羨は無理矢理己を納得させる。

零夢「ふへ、ありがとう」

零夢が首を傾げて微笑むと金簪の装飾がキラキラと揺れる。
髪色も相まって金氏の甥の装飾品にすら劣らない見栄えだった。

更新日:2023-03-26 02:17:27

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