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「くそっ、アイツ…逃げやがった…。」
『何の事かな?』
「惚けんな!先刻までのお前の姿は、灰の王の後継だった時のものだろう!それなら私より、お前の方が適任じゃ無いかっ‼︎」
『う〜ん…制約かなぁ。過去の事は分かんないね。…残念っ!』
本の中のアスタロトは、ちっとも残念そうでは無かった。
「聖女の後継と、灰の王の後継のお前なら、誰も文句を言えん!…今直ぐ出て来い‼︎」
『おばちゃん、諦めろ』
『自分らは、もう諦めたんだ』
『諦めた方が楽な時もあるからな』
三人のコノちゃん達は、大人しくただ頷いていた。
『じゃあ、アイリスは辞退すんの?…それで本当に後悔しない?』
「後悔なんざ、する訳あるかっ!」
『ふ〜ん…なら可愛い妹とも、これっきりって事だね』
「なっ…ティファンと…か? なんで…。」
アイリスは思いも寄らない事を言われて、幾らか狼狽えている様子だった。
『元々狭間じゃあ長いこと一緒に居れなかったんだろ? 元の力を取り戻した今となっては、尚更無理だよ。一瞬で持ってかれる』
アイリスは愕然とした面持ちで、黙って立ちすくんでいた。
『此処なら会えるのになぁ〜。…頑張ってたよ、勉強。コッソリ覗きに行く位、誰も咎めないだろうにねぇ』
「お前…卑怯だぞ……。」
『お褒めの言葉を有難う。悪魔に取っては、最高の賛辞だね』
アイリスとは対照的に、アスタロトはとっても楽しそうだった。
今のアスタロトは女神らしくは無いけれど、きっとこれは二人なりの繋がり方なんだと思った。
「玄室の使い方は、リュークから教われば良い。…この次元の玄関口は、コノ達に任せておけば、巧く作り上げるだろう。」
『お父ちゃんは、纏めに入ったな』
『当事者の意見じゃ無いな』
『丸投げだな』
アイリスに抱えられたコノちゃん達が、幾らか非難がましく言っている。
『これは口が過ぎたんじゃないか』
『全員で輪番組むのは問題無いか?』
『それは良い案だ!』
「そうだな…落ち着いた頃になら問題無いだろう。」
お役目を与えられずに安心していたコノちゃん達が、ホルの周りで焦り始めた。
『それなら、自分らは文句は無いな』
『仕事が増えた程度だな』
『お母ちゃんの学校の整備をするだけか』
納得した様子で、三人のコノちゃん達は頷き合っていた。
『そんじゃ、やってみるか』
『髪が邪魔だな』
『お母ちゃんは似合ってんだがな』
そう言って、三人のコノちゃん達は、アイリスの腕の中から抜け出した。
そして、くるりと一回転すると、コノちゃん達の髪の毛は肩の上辺りの長さになり、前に見た朱色の衣を身に纏った姿になっていた。
『それ良いな』
『動きやすそうだ』
ホルの周囲に居る子達も口々に賛同し、同様にくるりと回り、同じ姿になった。
ホルはコノちゃん達を見渡し、宙に手を翳す。
亀裂を作り、そろそろ狭間へ帰るつもりなのだろう。
サクラに手を振ると「またね」と言って、笑顔で手を振り返してくれた。
「…学園長。」
「はい。…私は学園長ではございませんが、何用でしょうか。」
「今直ぐにアイリスが業務を担当するのは無理が有る。…学園長はそのまま続ければ良い。引き継ぎをするのは、この次元の代表だけだ。」
「………有難う御座います…。」
学園長が、深々と頭を下げた。
「愚かなのは、愚かな事を罪だと思う心だ。」
「…っ……!」
ホルからそう告げられて、学園長は何か気付きを得た様子を見せた。
再び学園長は深々とお辞儀し、その後は何も語る事が無かった。
「…帰ろう?」
亀裂が生まれたのを見届けて、ホルがいつものように私に微笑み掛け、手を差し伸べる。
私はその手を取り…アスタロトの本を手に、小さなコノちゃん達も一緒に亀裂を抜けた。

更新日:2023-05-05 21:08:31

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