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崩壊の始まり

玄室にてテュファンの様子を眺める事が、ここ最近の昼下がりの日課となっていた。
コノ達は日々統制が取れて行き、著しい成長を見守るのは楽しいものでもある。
それにしても…先日の闇の話は、人に置ける宗教の常套手段の様に思う。
幹部共に導かれた者らが、勝手に疎み…都合良くそれを悪と解釈する。
本来其処に存在する神との間に、魔が入り込んだだけだと言うのに…だ。
そしてその入り込む隙は、人の身勝手により生じている。
神話の時代から、人は全く変わらないままに、過ちを犯し続けているのだ。
アスタロトは己が悪魔である事を受け入れているようだが、勝手に他人が呼び始めた様な事をテュファンには言っていた。
あれも祀り上げられた存在の一人で、数奇な運命を辿り…本の中に入り、そして私と出会った。
今回の一件が無ければ、アスタロトの過去に気付く事は無かっただろう。
まさか…私達と同じく、あれが灰の王の血を分けた子だとは……。
「なぁ……アスタロトの事、知ってたんだろう?」
呟く様に言ったその言葉は、兄らには届いたらしかった。
「ホルは、狭間と一体化してるからな。…ティファンは其処まで力を使いこなして居ない。」
オルスはコノ達を眺めたまま、振り返らずに応えた。
「私はホルから聞きました。」
リュークが気遣わしげに、そう話す。
またしても知らないのは私だけか…とは思うものの、これは仕方が無い事なのだろう。
灰の王の事を完全に受け入れたとは言い難い状況で、実は身内が近くにもう一人居るなどとは、さぞかし伝え辛かろうと理解が出来る。
「………父王は、記憶を取り戻してたのか?」
思いがけずに出た呟きに、オルスはただ佇み、リュークは何も言わずに私を眺めている。
沈黙は…今の私には心地良かった。
「…最期の瞬間アイツは……受け入れてたんだ。…少なくとも、私にはそう見えた。」
リュークが黙って頷く。
これは肯定なのか…それとも情けなのかは分からないが、それに甘んじる事にした。
「親が…子供のしでかした事の責任を取るかの様でな。」
あの時、灰の王そのものだと感じていた父王は、全く抵抗せず…全てを受け入れていた。
「思い出していたのか…結局の処は私には解らん。だが、仮に思い出していたとしても…だ。あの瞬間…最期のあの父王は、灰の王とは言えないんじゃないか…とな。」
暫く、沈黙が続く。
リュークも、ただ私を見詰めたままだ。
「…お前がそう思うなら、そうなんじゃないか?」
背を向けたままに、オルスが言う。
「突き放してる訳じゃ無い。…彼と近い所に居たお前がそう思うのなら、そうなんだろうと思ったまでだ。」
「………そうか。」
結論が出たのか…そうで無いのか、自分でも良く分かりはしないが、オルスの言葉は私に取って救いでは在った。
その後も沈黙は続き…それは私への気遣いだと感じられた。
ぼんやりとテュファンの映像を眺めて居ると、妙な違和感を抱いた。
「なぁ…これ……。」
「ホルが向かった。」
オルスが落ち着き払ったままに告げるので、差し迫った危険は無いのかと一先ず安心する。
「…何時でも行ける様に、心構えだけは。」
しかしながら、リュークの真剣な眼差しが、危機的状況には変わりないのだと伝えて居る。
コノ達も動きを止め、静かにテュファンを見守っていた。

更新日:2023-04-30 22:09:16

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