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目の前の映像では、アスタロトが崩れ落ちている。
馬鹿め…あれはコツが要るんだ。
勢いの付いた彼女を受け止めたまでは良かったものの、思いも寄らない妙な事を聞かされて気が逸れ…バランスを崩したと言った処か。
あれは時に、とんでも無い事を耳にする迄が一括りだ。
ティファンのあれは、華奢な体からは察しの付かないほどに、中々の破壊力だったからな…。
…ん?
ティファン…いや、今はテュファンだぞ…?
『それじゃ、我々は一人残らず回収されるのか』
『お菓子が無いと、我々を留まらせる事など不可能!』
『山のようなお菓子が必要だ』
『そうだそうだ!』
囃し立てるチビ共に構いもせず、オルスは淡々とチビ共の全体像を眺めて居る。
オルスも、コノ達の扱いに慣れて来たらしい。
それにしても、ここ連日の成果もあって、コノ達の動きが飛躍的に変化した様に感じる。
奴らは元より全体で一つの存在の印象は在ったが、それよりも更に統制の取れた動きとなり、完璧に全てが同質の気配を放っていた。
「じゃあ…試してみろ。」
『良し来た!』
その言葉と同時に、全員が弓を出現させた。
矢をつがえ…それを放ったと同時に一つの矢が十程の数に成り、辺り一面に降り注いだ。
それらは光で出来ている様で、現時点では、当たったとしても何も問題は無いらしい。
「武器の扱いは、もう十分じゃ無いか?」
『ほんとか!』
『いや…まだまだ!』
『奥義を得るまでは…!』
方向性が変わって来ている気がするが、オルスがコノらの主張を前向きに捉えている様なので、何も言わない事にした。
お前ら、これは言った事に責任持たされるぞ…とは思ったものの、狭間の二人が楽になるのなら、まぁ…これはこれで別に良いんだろう。
…そう言えば、先程テュファンの事で何か気に掛かった事が有った様な気がするが、コノ達の一糸乱れぬ光の演武染みた物を眺めていた為に、何を思ったのかを忘れてしまった。
アスタロトが上手くやっている様だったし、そう緊急性の在る事では無さそうに思える。
それよりもアスタロトの…あの姿。
学園長の態度からして、あれは…私の思う存在で、ほぼ確定だろう。
アスタロトから、過去世の事に関して言い出す事は在るまい。
私からも…同様だ。
今は今……アイツとの関係を壊してまで得るものなど、過去には無い。
『お菓子は、お母ちゃんのが一番良いんだがなぁ』
「それならレイチェルの焼いた物がありますよ。…姿を見せない様にして頂ければ、ですが。」
『こっちのお母ちゃんのか!』
『それはそれで!』
『シアンと一緒に食うか』
「…今日は終わりにするか?」
騒めき始めたコノ達を前に、オルスが呆れた様な面持ちをしている。
『明日は倍!ってなるんだろう』
『分かってんだ』
『そんな甘い話は無いって事くらいはな』
『甘いのはお菓子だけだ』
オルスは黙って頷き、コノ達は続きを始めた。
「そこら辺にしてやったらどうだ?…そこそこコイツらも成長しただろう。」
「…向こうの二人の代わりをする迄には程遠い。」
二人の仕事が楽になる程度では無く、オルスはコイツらに仕事を任せようとしている様だった。
「ホルも、二人だけになれる時間が欲しいだろう。」
『お父ちゃんの気持ちは、お父ちゃんが一番良く分かってんな』
『我々はお邪魔虫だ!』
「…終わりにして良いなら、行くぞ。」
「レイチェルの所へですか?」
リュークが楽しげに声を掛けると、オルスは気まずそうに留まった。
まぁ…ホルもオルスも、自分の伴侶の事しか頭に無いってのは、否定は出来んな。
『まぁまぁ、ちゃんとやるってばよ』
『お父ちゃんで遊びすぎたな』
『こっちのお父ちゃんは怖いからな』
『諸々の事情は承知の上だ』
『そんで、弓の次はどうすんだ?』
コノ達が再び意欲を見せ始めたのを目にし、オルスが軽く溜息を付いて向き直っていた。

更新日:2023-04-30 20:34:19

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