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「あぁ…丁度良かったです。今呼びに伺おうと思っていた処でしたので。」
そう言うリュークは、幾らか困惑したかの様に見得なくも無い。
「何かあったのか?」
「えぇ…まぁ…ここでは少し…」
城内の普通の者らに聞かせられ無い話と察し、促されるままに移動した。
無言でリュークの後をついて行ったが、この先にあるのはレイチェルの館だ。
レイチェルに何かあったのかと思案していると、リュークが例の扉の前で足を止めた。
「ここか…?……ここは…今の私では………」
狭間に囚われる。
つい先日行ったばかりの狭間では、危うく過去に囚われそうになった。
しかも、また行けるかと尋ね…そう頻繁に行ける場所では無いとの言葉が返って来たばかりだ。
あれから未だふた月程度しか経っていない。
時期が良いのかもしれないが、そう散歩代わりに行く様な所でも有るまい。
しかも…ティファンから手渡された本を連日読み、あの次元の奴らとの出来事に思いを馳せてばかりいる今は、まともに向こうで我を保てると思えなかった。
「事情が変わりまして……どちらかと言えば、非常事態かも知れません。」
「…どういう意味だ?」
「通常であれば、あなたを呼ぶ事は無かったでしょう。…先日の事については稀な事で、あなたご自身も、その様に認識頂いていたかと。」
軽く頷き、先を促す。
「どうぞ、そのままお入り下さい。囚われる事は無いでしょう。…寧ろあなたの波長に合うかも知れません。」
良く分からないが、問題は無さそうだ。
しかもどうやら非常事態の様らしいので、私が行かねばならん事情があるのだろう。
躊躇う気持ちが無いと言えば嘘にはなるが、行かないと言う選択肢は、今は無かった。
扉に手を掛け、一気に潜る。
……と、視界を奪ったのは、まるで良く晴れた日の夕暮れの様な赤だった。
血よりは薄い…朱。
けれども、黄金というよりは赤い。
まるで…別の世界に行ってしまったかの様な錯覚すら覚えた。

更新日:2023-03-17 18:48:29

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