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授業参観

軋み無い木造の建物の中を、幾度か人の塊を避けつつ歩いて行く。
一見古びた印象は有るものの、案外しっかりした作りの様だ。
右手には古書だらけの部屋…ここは図書室と言った処か。
遠目で目に入った程度だが、普段であれば手を伸ばそう文献が幾つか有った。
それにしても気になるのは、その内容と言うよりも部類だ。
大抵は其処が属す文化等により、それの方向性が偏るものだが、ここは其れが見られない。
例えば…地位有る者からの弾圧の形跡等も無く、好き勝手方々からかき集められたかの様な文献の数々は非常に興味深い。
これなら其々の宗教や風習との類似等も比較が容易で、そう言った事柄が好きな者ならば、幾日でも此の部屋に沈んで居られるだろう。
左手には豪華な祭壇があり…先程通り過ぎたのは石造の古代様式の祈祷場であったし、一言で言うなら『宗派問わず』が此処を表すに最も近い言葉だった。
次に続く部屋には何が有るのか…と興味深く覗き見ると、其処は簡素なテーブルと椅子が並ぶ部屋で、どうやら生徒らが授業で使う教室か自習部屋らしい。
そう…ここは教室。
テュファンが招かれた次元とは、まさかの『学園』であった。
次元に存在する世界に設けられた学園では無い。
この次元そのものが学園であり、学びを求めて居る者らが集う次元…だそうだ。
初めて聞いた時は驚いたが、前任の狭間の主が残して行った遺産らしく、ここの次元の代表者が、この学園の理事長の地位に付いて居る様だった。
ふと、机の上に置かれた物が気になった。
あれは魔法陣…何かを召喚する類の物だ。
あんな物を放置するとは此処の管理体制は如何なものか…生徒側の危機管理も低過ぎるのでは…と暫し思案して居ると、冷ややかな視線を感じた。
「いや…何もせんぞ。見てるだけでだな…。」
冷ややかな視線の主は、兄ら二人…リュークとオルスからだった。
ホルは、此処の次元から自分に向けられて居る印象の事を考えると行かない方が良いと言い、代理でオルスが来る事になったらしい。
本来はリューク単独で訪れる予定にしていたものの、私も行く事になってしまった為に、オルスを伴う事にしたのだと聞かされた。
「別に、好きにすれば良い。」
てっきり小言の一つでも…と思っていたのだが、オルスの言葉は寧ろ無関心なそれに近かった。
「俺は…此処の者に立場というものを分からせてから、ティファンの方を参加させれば良かったと思ってるからな。…ホルは甘い。」
オルスからの説教が無い事を不思議に感じていたのだが、オルスにも何やら思う処がある様だ。
コイツが此処まで棘のある表現をするのも珍しい。
「何なら燃やして来い。…それか勘付かれ無い様に喚んでやれ。あれを放置させる方に責任が在る。」
勿論全てが本気では無く、冗談半分と言った風ではあるが、普段のオルスからは有り得ない言い様に戸惑いを覚えてリュークを見遣った。
「些細な事だけをさせる様にご指示なされば宜しいのでは?…どうせ貴方のお知り合いを呼び出す陣でしょう、あれは。」
それはそうだが…お前達は私を止める側なんじゃ無いのか?
リュークまでもが面白がった口調で、私をけしかけるとは…。
…どうやらこの場には、この次元に対して攻撃的な考えを持つ者しか居ないようだった。…私を含めて。

更新日:2023-03-24 08:23:05

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