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「じゃあ…とっとと済ますか。」
そう言ってテュファンから本を受け取り、一旦アスタロトを本の中へ還す。
奴にとっては念願の…と言った処だろう。
「そんじゃ…元々の私との契約は残る。それで、その上で…だな。」
暫し思いを巡らし、この場合に一番良さそうな方法を探る。
テュファンが扱う事になるのだから、余り複雑にはせん方が良いだろう。
「じゃあ…私が許可を与えた限りに置いて、一時的に別の者がお前を呼び出す権利を付与する。…それで良いか?」
『文句無い。それでやって良いよ。』
本の中から声が響いて来る。
簡単な詠唱をし…本来の契約の上にそれを重ね、上書きをする。
そして…一時的に呼び出す者として、テュファンの名を其処に刻んだ。
「終わったよ。これで…一時的にだが、テュファンも正式にこの本を所有する権利を得た。」
「ありがと、アイリスっ!」
そう言って彼女は私へ抱き付き…そっと両手を私の背に回した。
あぁ…そうだ、これもティファンとは違う…か。
テュファンは私を労わるかの様に、いつも抱きしめて居たものだ…。
「…今…ティファンはどういう状態になってるんだ?」
テュファンの髪を撫で付けながら、兄達へ尋ねた。
「元々狭間と一体になった時点で、彼女にテュファンとティファンの境目はありません。…ただ、レイチェルと対になっている存在はティファンの方で、前任の主が此処を継がせた対象もティファンの方でした。分かり易く表現すると…今彼女達お二人は、主導権が逆になっている状態です。」
随分と気遣わしげな口調で、リュークが言った。
「そうか…。」
なら、テュファンとこうやって戯れられるのも、今だけと言う事になるのか…。
「私…ずっと居たんだよ? ずっと私の中からアイリスの事見てたから。」
「そっか…ありがとうな。…私だって、忘れてなんか無かったさ。」
そうだな…ティファンの中に、テュファンは居る。
レイチェルの中にティファンが居る様に…。
それは解ってはいても、遠い時の思いが再び胸に宿るのは、どうしようも無かった。
「…囚われないな。」
ホルが呟いたそれは、妙に重く感じられた。
「そう…だな。…それだけ、向こうの影響下にあるって事か。」
黙って、ホルとリュークが頷いた。
「頑張って来い、テュファン。…何時でも飛んでってやるから、何かあったら直ぐ呼べ。アスタロトに頼めば良いから。」
「うんっ。…じゃあ来てねっ⁉︎」
「あぁ…」
「アイリス来てくれるって!」
はしゃいでホルを振り返るテュファンと…それを見る兄達二人の様子に、幾らか違和感を感じた。
「じゃあ、待ってるねっ!」
…うん?
何だか、直ぐに行かねばならん様な物言いだが……。

更新日:2023-03-21 12:01:44

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