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嬉しいご馳走

宇宙船セイクリッド・オーク号の中では、毎日規則正しい生活がおくられていて、みんなで話し合ったり、実験をしたり、シュミレーションをしたりの合間には、自分の勉強や研究に精出すことができた。

パドラスは窓際の星の見える席で、いろいろな星の歴史書を読んでいたのだが、頭が飽和状態になってきたので、本から目を離した。

“もしもしパドラスさん”
声をかけたのは赤い星のジャラだった。

“今夜のメニューなのですけれど見てもらえますかね”
手渡されたメニューを見てパドラスはびっくりした。

「スープ:アスパラガスのビシソワーズ、
前菜:鶏むね肉のテリーヌとフレッシュガーデン・サラダ、エスカルゴのガーリックバター焼き、
主菜:フォアグラと仔牛のステーキチョコレートソース和え、
デザート:クレープシュゼットオレンジブランデーソース、
特選チーズとクラッカー そしてコーヒー又は紅茶」

“どう、トップクラスでしょう?”
ジャラは得意満面であった。

“すごいね、こんなメニューどこで見つけたの?”
“「地球の料理辞典」からだよ”
“あのねジャラ、君が頑張ってくれるのは有難いんだけれど、こんな料理普通の家庭ではまず食べないんだよ。
昔は特別階級とか、何か特別な催しの時などには食べていたけれどね。
僕も食べたのは大昔のことで、まあ確かに美味しいには違いないけれど”

“そうなのか?じゃあこれじゃダメかな?”
“ダメとは言わないけれど、もっと典型的な地球の料理を味わいたかったら、ちょっと違うな”
“ではどんなのが典型的なの?”
“そうだね。
地球にはたくさんの国があってね、みんなそれぞれ個性的な料理があるんだよ。
僕が地球に生まれた2000年代は、外国の料理がどんどん入ってきて、料理の国境ががなくなり、一番バラエティーに富んでいたかな。
そのころの料理が一番いいかもしれないよ”

“例えば?”
“例えば、カレーとか、とんかつとか、ハンバーグとか、オムライスとか、スパゲティーナポリタンとか、マカロニグラタンとか。
あれ~日本の洋食になっちゃうなあ。
でもいいんじゃないかな、僕の好みだし”
“じゃあ君のお勧めにするよ、確か「日本食」っていう辞典があったぞ”
“「日本食」じゃなくて「日本の洋食」だよ”

その晩の食卓にはいろいろな種類の「洋食」がテーブルを彩った。
“わ~豪華だね。これが有名な日本の洋食ってものか”
“いいにおい、どれから食べようかしら?”
などと皆が見とれていると、ジャラが言った。

“ここに今並んでいるのはイメージだけです。
固形物の食事には慣れていない人が多いですからね。
イメージのままだと味、におい、舌触り、栄養、満腹感を味わえます。
実際に個体で食べたい方は、そこにあるお塩のような粉をかけてください。
そうすれば本物のお料理に変わりますからね”

パドラスはもちろんその粉をかけて食べ始めた。
“懐かしいな、僕が日本に住んでいた時に食べたものと全くおんなじだ”
“あらっ、あなたも日本に住んでいたの?”
とピンクの服のサイラが聞いた。
“いや住んでいたと言ってもほんの短い間だったけれどね。
旅行で行って長引いてしまったのさ”
“つまり私たちは同じ頃に地球に生きていたわけね。
あの頃の地球は変動期だったから、多くの星人間たちが経験を積みに生まれていったのよ”

“君はどんな経験をしたの?”
“日本は特にすごかったのよ。
毎日いろんなことが超スピードで変わる世界なの。
みんな一つのことに熱中していたかと思うと、その波が一日のうちにスーッと引いてしまって、何かとんでもない新しいものが流行り出すの。
躍動のエネルギーの国だったわね。
私は毎日スリルを味わったわ。
私スリル大好き人間なの”

“そうか君のエネルギーと、とても良く合う国だったのかも知れないね”
“そうなのよ”

サイラはなにから食べようかなとテーブルの上を見渡した。
“私も粉をかけて本物の料理を味わうことにするわ。
私の胃はその経験があるから、消化不良は起こさないはずよ”

その夜は、皆それぞれに食事を楽しんで、だれもが満腹で眠りについたのだった。

更新日:2023-03-21 12:35:27

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セイクリッド・オーク(聖なる樅)・ギャラクシーの旅