ロックバンドの日本ツアーを成功におさめた２０２８年の十月、ぼくと妻の間に双子の子供が生まれた。男の子と女の子だった。名前をロックとカヨウキョクと名づけた。

　一年後に開催された世界中のロックミュージシャンを集めたフェスティバルでぼくたちのバンドは最優秀賞を受賞し、アメリカのプロモーターから声がかかった。アメリカでのライブは十万人を集めた。その後もアジア諸国やヨーロッパで大規模なライブツアーをし、２０２０年代から２０５０年の現在まで創作とライブ活動を続けた。アルバム総売り上げは三億枚を超えた。

　息子のロックが率いるバンドと娘のカヨウキョクがボーカルを務めるバンドとセッションをすることになった。場所は太平洋に浮かべた十万人が収容できる特設ステージだ。抽選で選ばれたファンたちはフェリーでステージに移動し、ぼくたちはヘリで会場に乗り込んだ。当日は快晴で海も穏やかだった。ライブは世界中に中継された。ライブが始まってまずぼくはバンドのメンバーと息子と娘、妻、そして世界中のファンの人々に心からの感謝を述べた。そうしてぼくは何万回目かのギターを弾いた。メンバーもそれぞれの音を奏でた。そしてメンバー一人一人と音を交わしたあと、ぼくはロックとカヨウキョクを紹介した。

　ファンは温かく迎えてくれた。ぼくはギターを天に掲げて、今は亡き父と母に祈りを捧げた。マイクに一曲目のタイトルをそっといった。会場が沸き上がる。三つのバンドが一つの音楽を奏で始める。あらゆる音が絡み合ったメロディーの美しさが心地良い余韻を残していく。ぼくは音楽の世界に身をゆだねていく。会場の人々の全てとぼくたちは一つになっていく。同じ宇宙の同じ星に生まれて、同じ時代に生まれ、同じ時を過ごし、同じ場所に存在し、同じ人間で、同じ音楽に夢中になっている。ぼくたちは幸福に包まれている。

　空に向かってギターのピックを思い切り投げる。そのあとぼくはカメラに向かっていった。どこまでも、いつまでも未来永劫、永遠に世界中のファンと、このバンドとメンバーと息子と娘と妻と世界中の全ての人々に幸福な時が続けばいい。だからみんなに感謝しよう。ありがとう、といおう。できるだけ多くの人々に。世界は変わる。人々の全てがお互いに感謝できる世界にしよう！　ありがとう、といおう！　今すぐに！

　　　　　　　　　　　　　　　了