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第1章 タイムトラベラー、ピロン

“ピロン、面白いものができたよ。見に来ないかい?”

ピロンがレインボー・ハイランドに戻り、ガ-ネット姫となって暮らし始めてから、さらに4年の年月が過ぎたある日のこと、オレンジ村のタクト村長からこんなメッセージが届いた。

“今度は一体なんだろう?”と、ピロンは期待と不安の混ざった気持ちで出かけて行った。

期待の気持ちは分かると思うが何故不安かというと、タクトは時々ピロンをからかうからである。
しかしピロンも慣れたもので、いつもうまくかわしているから、タクトはますます面白がり、ピロンをやり込めようといろいろ策略を練ってはチャレンジを仕掛けてくるのだ。

オレンジ村の研究室では、タクトを中心とする未来開発グループのメンバーが、完成しつつある新たなマシーンを検討しているところだった。

「これでいけるかな?」
「そうですね、これが今までで最上の出来ですし、これ以上は今のところ改善の余地はないようですから」
「そうとしたら、誰が実験台になるかな? 
きみがやってみるかね、第一技師?」
「えっ、そんな私なんかおこがましい、やっぱり最初の成功者としてタクトさまが栄光を手に入れるべきでしょう」
「それは成功したらのことで失敗したらどうするの?」
「じゃあ私なら失敗してもいいとおっしゃるのですか?」
「いやいや冗談さ、失敗などしないよ。
ビンゴ2世だってちゃんと戻ってきたじゃないか?」
「そりゃそうだけど、でもビンゴ2世はチンパンジーですからね。
私はこのチームに完全な信頼を置いていますから、成功あるのみと信じています、が、チームのものがもし帰ってこなかった場合、プロジェクトを続けるのが困難になりますよ」
「そうか。あっ、ちょうどいいのがいたぞ。あの子ならぴったりだ」

というわけで、ピロンは呼ばれたのであった。
そして、ピロンはオレンジ村で開発された初のタイムマシーンに乗ることになった。

「タイムマシーンと言っても、映画“バックトゥザフーチャー”とは全然違うんですね。
ていうか、この腕時計をはめるだけ?乗り物はないの?」
「ないんだよ、本当は腕時計もいらないんだけれど、全く何にもないと頼りなく思うのが人間というものさ。
だから腕時計はほんのおまじないみたいなものだよ。
何にもなくても過去にも未来にも行けるんだ。
ほら君が何にもなくても他の場所に移動できるみたいにね」
「じゃあ、その時みたいに自分の行きたいところへ意識を集中すればいいのですか?」
「いやそんなこともしなくていいんだ。
この部屋がもうタイムトラベルできる空間に設定してあるから、ただ行きたいところを思い浮かべればいいんだ。
サルでもできたんだからね」
「ビンゴ2世はどこへ行ってきたの?」
「バナナのたくさんなっている場所へ行ったようだよ。
おなか一杯になって帰ってきた」

「じゃあ私は過去へ行きたいな。
過去に戻ってパドラスにまた会いたいんです」
「それならそうすればいいよ。
でもあまり向こうで長居はしないでね。
帰って来たら成功のお祝いパーティーが待ってるからね。
では行ってらっしゃい」
「あれっ、腕時計の針を昔の時間に合わせたりしないでいいの?」
「だからそれはただのおまじない。
何にもしなくていいって言ったじゃないの。
だけど時計は必ずいつも付けていなくちゃだめだよ。。。。。。」

タクトの声がこだましながら薄れていった。

更新日:2023-01-23 18:41:53

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