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「妊娠したいって……まだ相手とはつきあっていないんでしょ。もしかしたら遊びかもしれないし」
 とリカが必死に説得する。
「そうそう、ククは騙されやすいから特に心配。人を見る目なさすぎるし」
 とナナも口を添える。
「だからやかましいって!」
「赤ちゃんができたら自分だけの問題じゃなくなるわ。もちろんククちゃんだって子供が欲しいと思うことは自然なことだし、私だってククちゃんに幸せになってほしいと思っているわ。でも……こればかりは早まってはいけないと思うの。私達だってよく相談してから決めたし」
「そうそう、リカだってあなたが思う以上によく考えて行動しているのよ。子供は自分の所有物じゃないんだし、父親だって必要よ」
「そうだよね……でも……私は信じたい。お願い、私に避妊魔法かけないで、リカ」
 ククはぐっと目を閉じて手を合わせて必死に請願した。もちろんリカの言うとおりだと思うし、自分勝手に物事を進めていけないことなんてわかっている。
 でもそれでもククの中でこれだけは譲れなかった。
 リカは無理強いすることもできず、そっとククを抱きしめうなずいた。
「わかったわ。そこまで言うんだったら私はとめない。どんな結果になっても私はククちゃんのことを応援するわ」
「リカ……ありがとう」
 そう、あのとき、リカがもし自分に緊急避妊魔法をかけていたらクミは生まれなかった。なぜならばあのあと互いに多忙を極め、恋人と交際することは叶わなかったからだ。
二人が結びついたのはあの日が最初で最後だった。
そして次、彼がククの前に現れたのはクミを出産した直後だった。
戦うことはもちろんのこと、自在に体を動かすこともままならなかったあのとき
ククとクミは強大な敵シャックス将軍に命を狙われた。大いなる力を持つシャックス将軍を前にほとんどの十賢者が倒れていった。リカやナナもまた身重でとてもじゃないが戦える状況じゃなかった。
シャックス将軍が極大魔法で自分たちを焼き尽くそうとしたとき、クスベンは決死の覚悟で自分たちの盾となったのだった。
「クスベン!」
 ククは悲鳴をあげた。黒焦げとなったクスベン。残酷な笑みを浮かべてシャックス将軍は彼にとどめを刺すべく刃を向けた。だがその瞬間、超念力の力に目覚めたシオリ・カモミールは遠方から拳を握りつぶすことでシャックス将軍の心臓をえぐり出した。その数秒後にはポポがシャックス将軍に極大魔法スリーフォースクロスを浴びせた。肉片が塵となって消えてなくなり、シャックス将軍を動かしていたコア(魔晶石)のみがあらわとなった。
 コアは灰となった肉片をあつめ、再生を始めようとしたがシオリが超念力で動きを封じ、ポポがオーラセーバーでぶった切ったことで彼は完全に消滅したのだった。
 シャックス将軍が消滅すると彼が率いていたすべての軍の動きが止まり、塵となって上空に散っていった。身動きができないククにクスベンは必死に真っ黒の体をひきずりながら近づいていく。
「く……く……」
「どうして……どうしてこんなムチャを!」
 ククは泣きじゃくりながらクスベンに手を伸ばした。
「守りたかった……たとえ力が及ばずとも……すまない。寂しい思いをさせたな」
「寂しかった。ずっとどこでなにをしていたのよ? 私は……私たちはずっとあなたを待っていたのよ!」
 クスベンの手がようやくククに届いた。クミは念力で彼を引き寄せてぐっと抱きしめた。クスベンは生まれたばかりの娘の手を取った。
「クミ……」
「えっ?」
「この子の名前だ。私が考えた名前だ。ミナミ様の予言が正しければこの子はいずれ必ず世界の救世主のひとりとなるだろう。だからこそ、私はこの子にその使命を全うできるように……久しく美しく生きられるようにこの名を授けたい、クミ……」
「久美……それが私達の娘の名前」
「ああ……」
 クスベンの息が荒くなっていく。
「クスベン!」
 ほぼわずかの力しか残されていないククは必死に彼に回復魔法をかけたが全く意味をなさなかった。
「クク……クミ……愛している」
 彼は口からドッと大量の血を吐きそのまま帰らぬ人となった。

 結局、怒涛のように出会い、結ばれ、恋愛が何であるかを知らないまま年だけを重ねていった。自分たちの絆を築くことすらも許されなかった。
 なんと運命は残酷なのだろうか
 だがひとつだけククは天に感謝した。
 自分にクミという天使を授けてくれたことを

更新日:2023-04-04 21:23:59

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