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第1話「人生最高の誕生日」
1
トントントントントントン
「クミお嬢様、起床時間です」
ハウスキーパーのマユミさんが私の寝室のドアをノックする。私は目をこすりながら時計を見た。朝五時だった。昨日は官能小説に夢中になりすぎてしまって寝るのが遅くなってしまった。そのためにかなり眠い。だけどもう起きなければ――
部屋の外からはパンのいい香りがしてきた。マユミさんがまたパンを焼いてくれたんだ。サクッサクッと手際よく山形パンをカットしつつ、フライパンでいつもの目玉焼きとベーコンを焼く音がした。
自分の寝室を出て居間に行くとそこには自分の今日着る制服がハンガーにかけられていた。あまりにも眠すぎてあくびをしてしまった。
「昨日も遅くまで起きていたみたいですがなにか手伝えることはありますか?」
マユミさんは心配そうに私の顔を覗き込んだ。
「いいや、大丈夫です。ちょっと本に夢中になっちゃって……」
「本に夢中になることは素晴らしいことです。たくさん本を積極的に読んでください。教養が身につきますから」
マユミさんは感心するように言った。
(とはいっても官能小説だけど……)
ちょっとだけ苦笑いしながらマユミさんがつくってくれたベーコンエッグパンを咥えた。
「お母さんはもう出てしまいましたか?」
私がそういうとマユミさんは呆れるようにため息をついた。
「いいえ、そもそも昨日は結局帰りませんでした。いつも通りシンボルタワーのソファーで一夜を明かされたんでしょう」
ちなみにシンボルタワーとはお母さんの職場アムステル大学校で一番大きい蜃気楼のようなタワーのこと。そしてシンボルタワーの最上階には応接間があり、そこには薄青色のふかふかのソファーがある。そこは別名ククのベッドと言われていて、お母さんは仕事が忙しい時はたいていそこで厚いタオルをかけて寝ている。でも最近はまた忙しい日々が続いていてほとんど家に帰ってこなかった。
「今日も帰れなさそうですか?」
「そうですね……でも今日くらいは帰ってきてほしいものです。なにせ今日はあなたの十二歳の誕生日ですからねえ」
マユミさんは私の誕生日をしっかり覚えていてくれた。それだけでも少し目が潤んでしまった。お母さんは覚えているのかな。特に朝のメールにお母さんからもものはなにもなかった。
「ケーキはいつもどおり●ジヤのイチゴたっぷりのショートケーキにしましょうか、それともグディバ製のチョコレートケーキにしましょうか? 後者ならば今すぐ店に並ばないと手に入りませんが」
「いつものケーキで大丈夫です。いちごたっぷりのショートケーキで。でもマユミさんも忙しいのになんだか悪いです」
「クミ様の身のまわりのことをするのが私の仕事ですから。仕事である以上これは当然のことです」
(当然のこと……)
突き放すように言うマユミさんに少しだけしょんぼりする。でもそれでも彼女の仕事に抜けはまったくない。本当によくしてくれているし彼女の真意はともかくとして彼女の好意に対しては感謝したい。でもなんか違うような……
そんな違和感を抱きながら私は朝食をすべて食べ終え、歯を磨き、制服を着た。
「いってらっしゃいませ」
「行ってきます。マユミさん」
彼女に礼儀正しく礼をして私は家を出た。
トントントントントントン
「クミお嬢様、起床時間です」
ハウスキーパーのマユミさんが私の寝室のドアをノックする。私は目をこすりながら時計を見た。朝五時だった。昨日は官能小説に夢中になりすぎてしまって寝るのが遅くなってしまった。そのためにかなり眠い。だけどもう起きなければ――
部屋の外からはパンのいい香りがしてきた。マユミさんがまたパンを焼いてくれたんだ。サクッサクッと手際よく山形パンをカットしつつ、フライパンでいつもの目玉焼きとベーコンを焼く音がした。
自分の寝室を出て居間に行くとそこには自分の今日着る制服がハンガーにかけられていた。あまりにも眠すぎてあくびをしてしまった。
「昨日も遅くまで起きていたみたいですがなにか手伝えることはありますか?」
マユミさんは心配そうに私の顔を覗き込んだ。
「いいや、大丈夫です。ちょっと本に夢中になっちゃって……」
「本に夢中になることは素晴らしいことです。たくさん本を積極的に読んでください。教養が身につきますから」
マユミさんは感心するように言った。
(とはいっても官能小説だけど……)
ちょっとだけ苦笑いしながらマユミさんがつくってくれたベーコンエッグパンを咥えた。
「お母さんはもう出てしまいましたか?」
私がそういうとマユミさんは呆れるようにため息をついた。
「いいえ、そもそも昨日は結局帰りませんでした。いつも通りシンボルタワーのソファーで一夜を明かされたんでしょう」
ちなみにシンボルタワーとはお母さんの職場アムステル大学校で一番大きい蜃気楼のようなタワーのこと。そしてシンボルタワーの最上階には応接間があり、そこには薄青色のふかふかのソファーがある。そこは別名ククのベッドと言われていて、お母さんは仕事が忙しい時はたいていそこで厚いタオルをかけて寝ている。でも最近はまた忙しい日々が続いていてほとんど家に帰ってこなかった。
「今日も帰れなさそうですか?」
「そうですね……でも今日くらいは帰ってきてほしいものです。なにせ今日はあなたの十二歳の誕生日ですからねえ」
マユミさんは私の誕生日をしっかり覚えていてくれた。それだけでも少し目が潤んでしまった。お母さんは覚えているのかな。特に朝のメールにお母さんからもものはなにもなかった。
「ケーキはいつもどおり●ジヤのイチゴたっぷりのショートケーキにしましょうか、それともグディバ製のチョコレートケーキにしましょうか? 後者ならば今すぐ店に並ばないと手に入りませんが」
「いつものケーキで大丈夫です。いちごたっぷりのショートケーキで。でもマユミさんも忙しいのになんだか悪いです」
「クミ様の身のまわりのことをするのが私の仕事ですから。仕事である以上これは当然のことです」
(当然のこと……)
突き放すように言うマユミさんに少しだけしょんぼりする。でもそれでも彼女の仕事に抜けはまったくない。本当によくしてくれているし彼女の真意はともかくとして彼女の好意に対しては感謝したい。でもなんか違うような……
そんな違和感を抱きながら私は朝食をすべて食べ終え、歯を磨き、制服を着た。
「いってらっしゃいませ」
「行ってきます。マユミさん」
彼女に礼儀正しく礼をして私は家を出た。
更新日:2023-01-16 23:16:45