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最終話「受け継がれる命」

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 一隻の煌びやかな宇宙船が二本の大きな翼をたたみながらオルフィー国第一空港に降りてきた。それから数刻後一人の男ミチヅカが威風堂々とした様子で広々とした空港の大回廊を抜けていき、人気のない街角の裏道に降りてきた。背丈は二メートルほど、油で湿った手入れされていないロング黒髪、無精ひげをはやし、ボディビルダーのように鍛えられた巨体、その巨体を金色のスーツで包み込んでいた。人気のない街角の裏道の奥には一人の少女ユキが赤い目を充血させながら待っていた。
「任務は無事に完了しましたぜ、レディナス卿」
「まるで鬼の首を取ったような威勢だな。ミチヅカ」
 ユキは苛立たしさマックスでつぶやいた。
「そりゃそうですよ。なにせあのナナを始末したんですよ。地上界最強と自称するだけのことはある。もっとお褒めの言葉をいただいてもいいはずです。何か大きな不満でもあるのですか?」
「ナナを仕留めたのは褒めてやろう。だが我は、今、人生で最も不愉快な気分だ。ミチヅカ、貴様は我をだましたのか?」
「おっしゃる意味が分かりませんが」
 とミチヅカも若干不機嫌顔となった。
「由里の力は天地魔界で最強ではなかったのか。たった一人の小娘の魂のパワーにすら負けるほどの取るに足らない力なのだろうか?」
 ユキが本題に入るとミチヅカは気まずそうな表情を浮かべて頭を右手でボリボリとかいた。
「あなたは大きな勘違いをされていますな、レディナス卿。俺はなに一つとしてあなたをだましていませんよ。由里の力は以前にも申し上げた通り天地魔界において最強の力です。ですがその最強の力を引き出せるかどうかはあなた次第ですよ」
「なんだと!?」
「一朝一夕で最強になれる、世の中にそんなうまい話なんてありませんよ。最強というものは天性の才能を持ったものが血の滲むような努力を重ねてようやく手にいれられるもの。これまで俺は自称最強と名乗る魔導師と数多く戦ってきましたがたいていはたいしたことなかった。だが……ナナにはそれを言うだけの実力があった。久しぶりに俺もマジになりましたからね」
「そうか……」
「この星にはまだ……俺を本気にさせてくれる実力者はいないようですね」
 ミチヅカはユキに挑発するように言った。
「シオリとクミ。奴らは早々と始末しなければ取り返しのつかないことになるバケモノだ」
「ああ、あのふたりね……俺にとっちゃハエ同然ですな。まさかあんなハエ達すら叩けないのですか。そりゃー、激おこぷんぷん丸になるのも無理ないですな。あんなハエどもも始末できないようじゃあなたの沽券にもかかわってくる」
「無礼極まりないぞ、ミチヅカ。我を誰だと思ってその口を」
「由里の器を名乗るならばもっとしっかりしてくださいよ。俺は安定したサラリーマン生活を送りたいのです。そのためにあなたを選んだのですから。それなのに社長、いいや会長であるあなたがこれじゃ組織の統制はとれない」
「きっ、きさま……」
「あの目障りなハエどもを始末しろとおっしゃるならば我々が今すぐ全滅させましょう。ですがあなたはそれでいいんですか? あなたはあのハエどもも始末できない無能会長。暗黒四天王はおろかエージェント達にも見下され、あなたは由里の器としての威厳もなくなる。あなたがすべきことはあなたこそが地上界最強であり、我々を支配する立場であることを我々に知らしめることなのでは?」
 ミチヅカはどや顔で言った。
「たしかに……そうだな。それにこれ以上お前を威張らせるわけにはいかない。非常に……不愉快だ」 
 ユキ・レディナスは恨めしさをむき出しにしてミチヅカにつぶやいた。
「今後の成長、楽しみにしていますよ。レディナス卿。俺は大仕事やったんでしばらくドロンさせてもらいますよ」
ミチヅカは踵を返し、太巻きをくわえ、去っていった。

更新日:2023-11-02 22:11:59

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