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第13話「悪魔からの挑戦状」

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 オルフィー地区での感染症事件が起きる前日――
  紫色の閃光と青色の閃光が激しくぶつかり合い、カキーンと大きな轟音を立てて、紫色の光刃がバトルフィールドから飛んでいった。
「えっ、うそっ、私が負けた?」
 ナミンは茫然とした様子でつぶやき、直前自分と光刃を交えたクミをじっと見た。クミに武器を奪われ、脱力したナミンは着地してまもなく気絶した。三十分にもわたる接戦
その姿をクク、アダム、ハルカがじっと見守っていた。
「少しはましになってきたようだな、だがまだまだだ。よちよち歩きし始めた赤ん坊ってところだな」
 アダムは厳然とした様子で煙草をふかしながらゼイゼイと荒い息をするクミを見下しながら言った。
「ちょっとアダム、もう少しは褒めるとかないの?」
 ククは顔を歪めながらアダムを批判した。
「ああ、このレベルで満足しているようじゃ話にならないな。シオリ以前に俺とやりあっても一秒ももたねえよ。まさかてめえ、今回の作戦クミも参加させようとしているのか?」 
 アダムは鋭い視線でククを睨みつけた。
「そっ、それはないわ。でもクミだってシオリや暗黒四天王相手じゃなければそれなりに戦えるわよ。十賢者並みの戦闘力を持っているんだから」
「はあっ、敵をなめんじゃねえよ、とくにシオリの付き添いのジンというガキはクミの何倍もつえーよ。前にアリサやヒロミでも手に負えなかったことを忘れたか?」
 アダムは天を仰ぎ呆れながら言った。
「あれは……謎の祭祀もいたからでしょ、あいつがいなければなんとかなったわよ」
 ククは頬を膨らませて反論した。
「お前の分析能力は糞過ぎて話にならねーな。クミはまだ修業不足だ。だが見込みは確かにある。潜在能力そのものは高いからなあ」
「それは認めているのね」
「ああ、だが今はあぶなっかしくてみてられねえ。むやみに戦わせるな。のちに他の暗黒四天王をボコすために大切にとっておけ」
 アダムとサヤカはそう言い捨てて煙草を床に落とし、足で踏みつけバトルスタジアムを去った。
「まったく頭のくる連中、もうちょっとクミをほめてくれてもいいのに」
 ククは頭に血を登らせて頬を膨らませた。クミはよろけながらククのほうに歩み寄っていった。
「おっおかあさん……私、ナミンちゃんに勝ったよ」
 クミはククの胸に倒れこむのをぐっと抱きしめて支えた。
「よく頑張ったわね、クミ」
 これまでクミが肉弾戦でナミンを打ち破ったことは一度もなかった。もちろん禁忌魔法を使えばナミンなど敵ではなかったが戦闘においては常に魔法が使える環境だとは限らない。
 母ククよりは肉体的に頑丈なクミだが魔法がなんらかの手段で封じられたとき、大人の闇の魔導師相手に立ち向かえるレベルではなかった。
 実際クク自身もかつてサヤカに魔封じを使われ、彼女に一方的に殺されそうになったことがあった。魔法だけに頼る戦法は実践ではかなり危険だった。
 もちろん肉弾戦となれば筋肉のより発達した大人の魔導師とまともにやりあえば負ける。だがそれでも勝たなければいけない。どんなに不利な条件であってもそれを切り抜けるだけの力をクミに身につけさせたかった。
 ナミン・ウッタッタはナナの娘であり、肉体的強度はトロロ星でもトップクラスだった。そして彼女の戦闘スキルもまた――
 もちろんアダムやサヤカといった百戦錬磨の戦闘のプロにはまだ及ばないがナミンと対等にやりあえるようになったことはクミにとってかなりの成長だった。
 
 決闘から一分が経過するとナミンはうっすらと目を開けてゆっくりと立ち上がった。
「いいや……まいった、まいった。クミちゃんやっぱり強いなあ。肉弾戦だけはナミン、負けなかったのに」
 ナミンは体についた土を払い、そっとクミに駆け寄った。
「ううん、ナミンちゃんもすごいよ。今回は運が良かっただけ」
「またまた……」
 ナミンは苦笑しながらクミの肩をパンとたたいた。ククはクミとナミンに回復魔法をかけると瞬間移動魔法を使い三人まとめて自分の家まで移動した。
 

更新日:2023-07-04 23:52:29

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