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第11話「心の試練」

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6012年10月11日――

 ウッタッタ一族の女中をまとめあげる最長老トキエが倒れた。それはクミとリウスが別れたその翌日だった。ウッタッタ屋敷はいつもに増してざわついていた。オルフィー国の暴君であり悪魔の王といわれるスバル・ウッタッタですら今日ばかりは政をわきに置き、トキエのお見舞いに足を運んだ。
 スバルにとってトキエは時に政敵となり、激しく衝突したこともあったが、同じくウッタッタ一族の未来を案じ、ともに未来永劫繁栄を目的と歩んできたパートナーの一人だった。トキエはウッタッタ一族で最年長であり、スバル王の二代前から一族を見守ってきた。
 年は六十を超えており、高齢ゆえにいつ死んでもおかしくない状況だった。環境が厳しいトロロ星においては六十の時を生きることは並大抵なことではなかった。
「おい、もう助かる見込みはないのか?」
 スバル王はトキエの主治医であるムツコに怒鳴り散らした。
「なにせかなりご高齢で衰弱しているので……」
 トキエは肺炎にかかっていた。そしてそもそも内臓がかなり弱っていたために彼女に劇薬を飲ませることもできず自然治癒力を高める回復魔法すら大きなリスクとなった。
「ええい、どいつもこいつも役立たずめ。」
 スバル王はすべての医者をトキエの寝室からつまみ出した。
「もうよすのじゃ、スバル。お前が喚いたところで助からんものは助からん。六十年以上も生きたんじゃ。もう十分じゃろ。ウッタッタ一族の発展のため、国の発展のためにやるべきことは多い。わしなんかにかまっている時間はないぞい、自分の仕事をせい」
 トキエはゲホゲホと咳をして、ベッドに血を吐いた。
「トキエ……」
「わしゃ―自分の仕事がしたいんじゃ。こうして寝たきりになってもまだ口だけは達者だ。若きウッタッタ女子たちに伝えたいことが山ほどあるんじゃ」
 トキエは頑として主張した。
「わかった。だが無理はするなよ」
「冥土の土産にひとつだけ警告しておこう。お前さんが民を苦しめ、いたぶり、搾取すればするほどシオリ派は強大となり、やがて我らを滅ぼすじゃろう。今こそ、千年前にたてたミナミ様やフミコとの誓いを思い出し、初心にかえるのだ。民と共に生きると」
 スバルは苦虫を嚙み潰したように顔を歪め、静かに部屋を去っていった。部屋に残った看護師たちがトキエの口下についた血をぬぐった。
「トキエさま、これ以上喋れば体に触ります」
「いったであろう、この老いぼれができる仕事はしゃべることだけじゃと。じゃがもうこれ以上無益な仕事はしたくない。モモと会いたい、わしを彼女の元まで運んでくれないか」
「そっそれはいけません。あなたは寝ていなければ」
 トキエは自分の残った力を食いしばり、そっと車いすに座った。立った瞬間に彼女は再び激しい動悸が走り、ぐっと目を閉じて痛みに耐えた。
「トットキエさま!」
「まったく長生きなんかするもんじゃないわい。体がガラスのようじゃ。昔は鉄骨よりも堅かったのに」
 トキエはひどく不機嫌そうにぼやくとゲホゲホと血反吐を吐きながら、彼女は倒れこむように車いすにもたれた。看護師は目を丸くした。そしてトキエの言う通りゆっくりと車いすをひき始めた。木造の長い回廊をゆっくりと進んでいった。

更新日:2023-06-20 23:45:48

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