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【零話】春宵の覚醒

エルフィールの地にオルディナ軍が攻め入ってより、3ヶ月…その地は、今や激戦区と化していた。王国軍は何とか砦を守るも、高地からの敵襲は日毎勢いを増すばかり。然もありなん、敵はオルディナ人の中でも武勇で名高い真の蛮族、未だ戦術をも知らず無敗を誇るテューロン族だ。このような情報を容易く得ることのできる王国の諜報網をこそ褒むべきか?否…何の事はない、同じオルディナの民でもテューロン族とは仇敵のロコ族から密告を受けただけだ。

高地の中程、今日も雌雄決戦の場となったそこに、1人の少年がいた。まだ子どもと呼ぶ方が相応しい小柄な姿は、先陣を切ったズーイックの傭兵に混じり、一丁前に剣を振るう。蛮勇1人斬り伏せた後に、少年は呟いた。

「やっちまった…かもな」

それは、彼自身、というよりも、この場にある王国軍に向けられたものだ。少々切り込み過ぎた感がある。勢いに乗ったつもりが、逆に引き込まれたか。気づけば敵に囲い込まれている。背後から攻めてきた大男を躱しがてら脇からの突きで止めを刺した少年は、剣を抜きながら溜息を吐く。

「遂に…今日か」

その時、前方から戦車の一隊が突き込んで来る。王国旗を翻すその戦車群は、敵を蹴散らし…味方をも轢殺す勢いだ。

「退け、退けぇい!!」

先頭の戦車に立った男が叫んでいる。少年は額を押えた。

(あのなぁ…)

彼の兜を見た途端、少年にはそれが誰か解った。ついでに、何をしに来たのかも。先鋭の退路を開け、と命じられた筈…それが、何故この行動に繋がるのか。突進してくる戦車をどう避けたものか悩んでいる内に、加速した戦車から伸びた腕に捕らえられる。そのまま無事、戦場を抜けた。

「すまんなぁ」

車内に引き込まれるや、少年は一応の礼を言っておく。怒鳴っていた男は振り返り、白い歯を見せた。

「俺が無茶か?なら、お前は何だ?毎度毎度、命令無視しやがって。無事に連れ戻らんと、俺が将軍に殺されるぜ。なぁ?セトゥス」
「そりゃどうも」

受け流しながら、セトゥスは後方を眺める。同様の方法で、傭兵たちの数名が釣り上げられていた。

(今日も…明日か)

更新日:2023-04-22 22:29:12

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