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同じ頃、エンキの向かう道の先、コピスの街へとセトゥスは足を踏み入れていた。途中、手伝いを兼ねて荷馬車に乗せて貰ったが故の先行だ。街道沿いでは相応の大都市と聞いて期待していたのだが、門を通った直後、目を側める。

(ん~…まぁ、普通のモンが見りゃ、悪い街じゃないんだろけどな)

旅人も多いし、活気のある街だ…ただし、この空気の淀みを無視すれば。生憎、セトゥスには判り過ぎてしまう。

何気ない振りで街路を歩きながら、様子を眺める。広場に面して造られた豪奢な屋敷と高台に眺められる館とが、まず目を惹く存在だった。宿場町というより、大規模な山村といった雰囲気が満ちている。とはいえ、農業よりも工業の方がより発達しているようで、工房や店舗が軒を並べる。何処か港町にも似た、独特の構造である。

「んまぁ、商売はしやすそうでないの」

概観が解ってくると、それなりに面白い。広場から延びる脇道へと立ち入って間もなく、背後から怒声が響いた。

「泥棒~!!」

振り向くまでもなく、脇を駆け抜けて行く者があった。子どもが3人、必死の形相で逃げて行く。セトゥスは思わず吹き出した。

「何処にもおるもんだなぁ」

何やら懐かしげに呟き、変わらぬ調子で脚を進める…と、すぐに行く手から小さな悲鳴が上がった。セトゥスは僅かに歩を早める…間もなく路上に転がっている女の子を見つけた。

「どうしたんだね?」

腰を屈めて声を掛けると、女の子は一瞬身を硬くしたが、セトゥスを見上げるや、叫んだ。

「ボリスが!」

女の子の指した先は、薄暗い裏路地…そこで、10歳くらいの男の子が荒くれ者に捕まっているのが見て取れた。もう1人、袋を大事そうに抱えたまま地面にへたり込んで泣いていた子が、別の男に蹴られてこちらへ転がってくる。

「ステファン!!」

女の子が、転がされた子を抱き止める…精々が5歳といったところか、ステファンはまだ小さな子だ。同情した訳でもないが、セトゥスはステファンを蹴った男を見据える…こちらも二十歳には到っていないであろう、若い。ボリスを捉えている男も同様だ。

「何だよ、お前。俺たちは泥棒を捕まえてやったんだぜ?」

薄笑いを浮かべる荒くれたちを、セトゥスはただ見つめていた。そこへ子供たちを追って来た親父が駆け込み、息を呑む…こうした場合、どういう展開を見せるのか、セトゥスは嫌というほど知っている。子供たちは、手酷く痛めつけられた上に盗んだものを取り上げられる。盗まれた親父は、盗品ばかりか礼金まで巻き上げられる。思い出したくもないが、身を以て知る事実。セトゥスは溜息を吐いた。

「何だ…あんたが代りに払ってくれんのか?」

荒くれが嫌らしい笑みを浮かべる…以前、子供が居た堪れず金で解決した旅行客でもいたのだろう。それも、1人2人ではなく。

「退けよ!お前…あっち行けよ、俺は殴られ慣れてんだ!見世物じゃねーぞ、バァカ!」

喚き出したのは、捕らえられているボリスだ。親父がおろおろし出す…ボリスの言葉も、また真実なのだろう。それでも動かないセトゥスに、荒くれが詰め寄った。

「払わねぇならとっとと失せろ、この愚図が!代りにテメェ、ぶっ飛ばすぞ!?」

更新日:2023-02-18 21:08:20

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