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その頃、ミリアに先立って居室に入ったユリウスは、もう少しで我を忘れそうになった…異常なまでに整えられた事務机の向こうに座る男を認めた瞬間に。それを頬が引き攣る程度に抑えた時、男がこちらを向いた。

「貴様…何故ここに…」
「何故とは不躾な。私がここに居る事に、何の問題がある」

自分と同じ仕草、同じ口調…同じ顔。それが、言い返す。ユリウスは彼を睨み据えた。

「その振りをやめろ…何度も言わせるな!」

つい、声が大きくなる。同様に睨み返して立ち上がった男が…不意に肩を竦めたかと思うと、表情を緩めた。

「あ~、怖い怖い。毎度の事とはいえ、そんな怒らなくたってい~じゃない」
「それが嫌なら自ら改めろ!」
「あらやだぁ、面白いからやってるに決まってんでしょ?」

先刻とは打って変わって砕けた調子…今となっては、意識して見なければ、両者の面相が酷似している事など気づかない程だ。ユリウスは額を押さえた。

「道理で衛兵の様子がおかしい訳だ。あまりからかってやるなよ」
「あちゃ~、そりゃ悪いことしちゃったねぇ」

全く反省していない声で、男は頻りに頷く。そこへ、ミリアと衛兵が押し入って来た。

「ありゃ~、間に合わなかったよ、ダグ君!」
「いや、そりゃそうでしょ…って…えぇっ!?」

闖入に際して表情を引き締めた男に、衛兵は眼を剥いた。

「ユ…ユリウス様が…2人…?」
「あ、あのね、ユーリ…」
「解っている。何も言うな、ミリア神官」

溜息を吐くユリウスの向こうで、男がまた表情を崩す。

「ありゃっ!?ミ~リア~♪おひさしっ!」
「あ~、デュオ君やっぱり来てたんだぁ!!」

あっという間に机の脇を廻り、男はミリアの元へ駆けつけ…ひしと抱き合う。ユリウスは再度怒鳴った。

「不謹慎な真似はやめろ!私の神聖な職場で…」

しかし、抱き合う2人はユリウスの言葉を綺麗に無視した。面食らう衛兵へ眼を向けると、ユリウスは頭を下げた。

「さぞ驚いた事であろう…すまなかった」
「え…いえっ!」

一応、敬礼する…が、正直なところ、衛兵は未だどちらがユリウスか判断しかねていた。日頃を思い返せば、ユリウスがこんなにお気楽な筈はない。だが、これ程取り乱したユリウスも、彼は見た事がなかった。

「混乱するのも無理はない…安心してくれ、私がユリウス=デルフィニオだ。それは私の弟…ユリウス=ハルドゥーン。通称ユリウス・デュオ…もう1人のユリウスという」
「あ、僕の事ね。以後お見知りおきをば~。デュオって呼んでくれて結構よ♪」

デュオは片眼を瞑って見せ、ミリアの肩を抱いたまま手を振る。その手を懐に入れ、取り出した眼鏡を掛ける。それにしても…兄弟とはいえ、余りに似過ぎている。衛兵の混乱を酌み、ユリウスは眉を顰めたまま言葉を継ぐ。

「私とデュオは双子なのだ。偶然、父母共に家を継ぐ身であった為、家名を分けたのだが…時折、このような悪戯を仕出かす馬鹿者でな、勘弁してくれ」
「そうでありましたか。しかし…自分のような者にそのようなお話を…」
「別に隠し事ではない。いや、事前に話しておかなかったが為に、悪い事をした。以後、承知していてくれると助かる」
「いえっ、勿体無いお言葉ですっ!」

敬礼する衛兵の眸子は、感激の余り潤んでいる。デュオとミリアは、薄笑いでユリウスと衛兵を見比べていた。その視線に頭痛を覚え、ユリウスは衛兵に言った。

「承知してくれたところで、職務に戻って結構」
「はっ!失礼しますっ!!」

即座に気持ちを入れ替えて、衛兵は部屋を後にした…ユリウスの信頼に応えるべく、張り切って。

更新日:2023-02-11 17:47:38

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