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都はオーガ邸、時は夜半過ぎ…

酒壷を手にオーガの私室を訪れたアッシュは、そこに常ならぬ情景を見、足を止めた…オーガは窓の紗幕を開け、夜の街を眺めていた。沈黙で見守るアッシュに、オーガが呟く。

「この国の、終焉か…その心は」

それは問い掛けか、或いは独言か…しかし、こうした台詞に慣れているアッシュは、その内容の不穏にも拘らず、いつも通りの応答をする…即ち、無言。オーガは紗幕の縁を弄びながら、更に続けた。

「漸く、未来を臨むことができそうだな」

卓に酒壷を置きながら、ふとその言葉を耳に止めたアッシュは、瞬後身が凍る思いがした。オーガの言う未来とは、この国の行く末のことではない…その果て、潰えし後の話をしているのだと、気づいてしまったから。新王がその座に就いて2年、大神巫女も新たに命を得、この国はまた1つの時代を迎えたばかり…それも、次代の、真に王者たる者を待つという期待を孕んだ時だというのに、オーガはその世に於いても未来へ想いを馳せてはいなかったというのか…?

「…何を思う?」

それも、ただの自問だと思った…思いたかった。だが、オーガはアッシュを見ていた。

「俺は…」

言うべきことが、見つからなかった。長い時間を経て、漸く手に入れた平安…それは束の間の夢だと、アッシュ自身知らぬとは言えない。だが…誰よりもこの国を想い、この国の礎となることを誇るようですらあったオーガが、容易くこのような事を口にすることに、嫌悪にも似た情を禁じえなかった。浅く息を吐き、オーガは尚も継ぐ。

「それも良い…だが」

紗幕が引かれる…それが、落ち行く終幕のように感じられ、アッシュは目を逸らす。

「見過ごす訳にも行くまい…我らは、傍観すべき立場にはないのだからな」

閉ざされた部屋に、オーガの声が響き、消えた。

更新日:2023-01-28 21:40:01

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