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黄昏の旅人
《沼》――それは、精霊の住まう場所。しかし、何故《沼》なのか?それは、そこに集う精霊の形を、簡潔に表した言葉である。彼らは、普通ではない。例えば、疫病風であり、汚泥であり、淀水であり、鬼火であり…つまり、彼らは病んでいるのだ。病んだ精霊が、同属にも見放され、行きつく場所…それが、この《沼》。人間には棲み難い場所、それでもそこに生きる者たちがいる…それもまた、見捨てられた者たち。追放者、犯罪者、呪術師、放蕩魔術師、異能力者…苛酷な環境に、命を落とす者も少なくはない。それでも吹き寄せられる人々…いつしか、そこには集落が出来、異株異様な秩序を持つ街が形成された。
やがて、《沼》には首長が生まれた。その時になって本国は初めて《沼》の持つ危険性に気づいた。それは国内に有って内に非ぬ一個の独立共同体、即ち異郷であると。とはいえ、その土地の忌まわしさ故に、本国はありとあらゆる意味でその場所に関与したくはなかった…戦闘は元より、交渉も、統治すらも…しかし、本国がそれでも憂慮したのは、《沼》が都から遠からぬ場所に在るからであった。本国では、幾度となく論議が交わされ、だが、答を見出すことは出来ず…結局は放置することに、いや、不可蝕の議題として闇に葬った。
そうして幾年…無法地帯として成長した《沼》から、物語は始まる。
やがて、《沼》には首長が生まれた。その時になって本国は初めて《沼》の持つ危険性に気づいた。それは国内に有って内に非ぬ一個の独立共同体、即ち異郷であると。とはいえ、その土地の忌まわしさ故に、本国はありとあらゆる意味でその場所に関与したくはなかった…戦闘は元より、交渉も、統治すらも…しかし、本国がそれでも憂慮したのは、《沼》が都から遠からぬ場所に在るからであった。本国では、幾度となく論議が交わされ、だが、答を見出すことは出来ず…結局は放置することに、いや、不可蝕の議題として闇に葬った。
そうして幾年…無法地帯として成長した《沼》から、物語は始まる。
更新日:2023-01-07 19:36:22