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09 梓のために打つべし
邦彦が初めてアウトサイドファイティングに勝利した丁度同じ頃、現場からさ程離れていない商業ビルの大部屋の会場に梓はいた。
今回もまた梓は、連日続くセレブ達の集まるパーティに強制参加させられていたのである。
最初のウチは物珍しさもあり喜んで参加する彼女だったけど、代り映えしないメンバーとの会話にも段々と飽きがきているのであった。
元々派手好きではあったものの、性格は至って地味な彼女。基本堅実な女である。
憧れのセレブ達が実は思った以上に軽薄な者が多く、約束事をしても後日ちゃんと守られることも稀である。何だかんだで、もう内心うんざりしていたのである。
「私、一体何やってるんだろ?」
自嘲する梓。思わず心の中でため息を吐く。
でも彼女のそんな不慣れさがむしろ周りからは新鮮に見えるようで。大勢で取り囲む者の中には梓のことを美女カワいいヒトと表現する輩もいて、実質パーティ会場の華やかな一輪となっていたのである。
梓は微笑を浮かべ、他のシマにいる徹に向けてお互いに手で挨拶を送り合うと、一人で会場の隅の化粧室に向かっていく。
改めて化粧を整えていると、今の自分を邦彦が見たら一体どう思うだろうか、などと考えを巡らせていた。
それで、先ず絶対心配されるだろうなぁと思ったら、さすがに気が滅入ってくるのである。
鏡に映る目の前の少女は、美男美女揃いのセレブの集まる会場の中でも突出して美しい。
今の自分は絶世の美女、憧れの対象である。邦彦と別れたあの時から、もうまともでごくごく平凡な日常の幸せは消えてなくなってしまっているのである。
それがたとえ自分のせいではないとはいえ、これも人生。とにかく生き延びるしかない。
すると突然ドアが開き、ハイヒールで床タイルをカッカッと鳴らしながら、一人の女性が梓の目の前に現れた。入れ替わりで部屋を出ようとしたら、その女性は梓の前に立ち塞がるのである。
彼女は、隣の高校のハイヒエラルキーのグループの女性である。これまでにも梓は何度となく、悪くもないのに言いがかりを付けられてきていた。
「ねぇアンタ。いい加減徹さんと別れてくんない?」
そう言って、梓の慎ましやかなお胸を指弾してくるのである。
さすがにカチンときた梓。思わず相手の突き出す指をギュッと握りしめてひねりを加えたら、相手は堪らず甲高い悲鳴を上げるのである。
「うっさいわねっ! 私と徹さんはただの友達よっ! 邪推するのもいい加減にしてっ!」
梓が掴んでいた右手を放すと、相手は憎悪にまみれた表情で彼女を睨んでいるのである。
梓はここで冷静になる。とりあえず相手の話がどうも判然としないため、うんざりしつつもちゃんと聞いてやることにしたのである。
すると、何でもその女性の彼氏でゴロ蝮と呼ばれる青年が、自分と別れて梓と付き合うつもりだと公言しているのだという。
梓は、その女性の彼氏がゴロ蝮と呼ばれていることに正直ゾッとする。あだ名から察するに、喧嘩が滅法強くて喰らい付いたら放さないタイプなのではないか。
目の前の女性は、腕組みをしていきり立ったまま、終いには梓のことを地味な性格のクセに生意気だとか、男たらしだとか、ホンと言いたい放題である。
梓は思わず相手の頬を引っ叩いた。
「いい加減にしなさいっ!」
一般的な場面においては、これでも片が付くところである。でも、相手にはそもそも常識などハナから持ち合わせておらず、逆上してやり返す気満々である。
「そうだっ! オマエの頬に傷を付けたらさぁっ、男どもにズェ~ッタァイ愛想をつかされるんじゃぁないかしらぁっ!」
そう叫ぶと、いきなりナイフを抜いて構えるのである。
ギランと刃が白く光る。
今回もまた梓は、連日続くセレブ達の集まるパーティに強制参加させられていたのである。
最初のウチは物珍しさもあり喜んで参加する彼女だったけど、代り映えしないメンバーとの会話にも段々と飽きがきているのであった。
元々派手好きではあったものの、性格は至って地味な彼女。基本堅実な女である。
憧れのセレブ達が実は思った以上に軽薄な者が多く、約束事をしても後日ちゃんと守られることも稀である。何だかんだで、もう内心うんざりしていたのである。
「私、一体何やってるんだろ?」
自嘲する梓。思わず心の中でため息を吐く。
でも彼女のそんな不慣れさがむしろ周りからは新鮮に見えるようで。大勢で取り囲む者の中には梓のことを美女カワいいヒトと表現する輩もいて、実質パーティ会場の華やかな一輪となっていたのである。
梓は微笑を浮かべ、他のシマにいる徹に向けてお互いに手で挨拶を送り合うと、一人で会場の隅の化粧室に向かっていく。
改めて化粧を整えていると、今の自分を邦彦が見たら一体どう思うだろうか、などと考えを巡らせていた。
それで、先ず絶対心配されるだろうなぁと思ったら、さすがに気が滅入ってくるのである。
鏡に映る目の前の少女は、美男美女揃いのセレブの集まる会場の中でも突出して美しい。
今の自分は絶世の美女、憧れの対象である。邦彦と別れたあの時から、もうまともでごくごく平凡な日常の幸せは消えてなくなってしまっているのである。
それがたとえ自分のせいではないとはいえ、これも人生。とにかく生き延びるしかない。
すると突然ドアが開き、ハイヒールで床タイルをカッカッと鳴らしながら、一人の女性が梓の目の前に現れた。入れ替わりで部屋を出ようとしたら、その女性は梓の前に立ち塞がるのである。
彼女は、隣の高校のハイヒエラルキーのグループの女性である。これまでにも梓は何度となく、悪くもないのに言いがかりを付けられてきていた。
「ねぇアンタ。いい加減徹さんと別れてくんない?」
そう言って、梓の慎ましやかなお胸を指弾してくるのである。
さすがにカチンときた梓。思わず相手の突き出す指をギュッと握りしめてひねりを加えたら、相手は堪らず甲高い悲鳴を上げるのである。
「うっさいわねっ! 私と徹さんはただの友達よっ! 邪推するのもいい加減にしてっ!」
梓が掴んでいた右手を放すと、相手は憎悪にまみれた表情で彼女を睨んでいるのである。
梓はここで冷静になる。とりあえず相手の話がどうも判然としないため、うんざりしつつもちゃんと聞いてやることにしたのである。
すると、何でもその女性の彼氏でゴロ蝮と呼ばれる青年が、自分と別れて梓と付き合うつもりだと公言しているのだという。
梓は、その女性の彼氏がゴロ蝮と呼ばれていることに正直ゾッとする。あだ名から察するに、喧嘩が滅法強くて喰らい付いたら放さないタイプなのではないか。
目の前の女性は、腕組みをしていきり立ったまま、終いには梓のことを地味な性格のクセに生意気だとか、男たらしだとか、ホンと言いたい放題である。
梓は思わず相手の頬を引っ叩いた。
「いい加減にしなさいっ!」
一般的な場面においては、これでも片が付くところである。でも、相手にはそもそも常識などハナから持ち合わせておらず、逆上してやり返す気満々である。
「そうだっ! オマエの頬に傷を付けたらさぁっ、男どもにズェ~ッタァイ愛想をつかされるんじゃぁないかしらぁっ!」
そう叫ぶと、いきなりナイフを抜いて構えるのである。
ギランと刃が白く光る。
更新日:2023-01-12 22:30:49