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no title

 十代の最後の夏に友人は詩を書いた。長い詩だったはずだが、時間と共に一部分以外その記憶はなくなってしまった。

 私たちは同じ年に生まれ、同じ街で育ち、同じ義務教育の学校、そして高校を卒業した。その頃はよく彼と夜中まで遊んだ。煙草も酒も彼から教わった。二人、バイクに乗って家出をして橋の下で寝たこともあった。

 高校を卒業すると私は東京の大学に進学し、彼は地元で運送業者に就職した。それを機会に私たちはお互いに連絡を取り合うことも少なくなり、しだいに会うこともなくなっていった。

 大学が長期休暇になり私は地元に帰ることにした。その途中、ふと立ち寄った書店で彼と偶然、出会った。

「Kだろう? 久しぶりだな」

 私が言うと、
「ああ、しばらく」

 と、彼はつぶやくように言った。

 偶然に久しぶりに会ったという驚きもなく、対面することをあらかじめ予測していたとでも言いたそうだった。

「何を読んでるんだい?」

 彼は文庫本を手にしていた。

「詩集。今、詩に興味があって」

 そう言って彼は背負っていたバックパックを下ろして中から一冊のノートを取り出し、パラパラとページをめくった。いくつか詩を作ったのだという。彼はやけにやつれて沈んだ顔をしていた。以前に会ったときよりも頬がこけて、体の細さが服を着ていても分かった。どこか精神的に病んでいるようにも見えた。そこに微笑をとりつくろって私にノートを差し出した。

 白いページに一行間隔に文章が並んでいた。その詩は数ページに渡って書かれていた。記憶に留めておこうと思ったわけではないのだが、私にとって最も印象的な一部分である詩が記憶に残り続けていた。

 話によると彼はもうトラックを運転してはいなかった。アルバイトでビルの清掃をしていると言っていた。軽い世間話程度の会話をしたあと、私は書店を出た。

更新日:2022-12-03 22:11:44

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