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spinelle⑵
その後、元塔だった屋敷の中や、その周辺の野原を皆で散策した。
屋敷の中は塔であった頃の名残か、私がいた頃程では無いものの、未だ壁中に本が仕舞い込まれていた。
シアンが興味を示し、本の背表紙を片っ端から見ていく姿を、後ろからただ苦笑しながら見守った。
草原に腰を下ろし雑談していると、時折何かが胸に訪れようとはしたものの、先程の様にはならなかった。
あれは…アスタロトに救われたな。
シアンの声は届いてはいたのだが、それよりもティファンの事しか考えられなくなっていた。
「落ち着いたか。」
ホルが隣に座る。
辺りに目を配ると、ティファンとシアンは寄り添いながら語り合い、リュークはそれを近くで見守っており、アスタロトは幾らか離れた所で空を見上げて寝転んでいる。
赤毛の元悪魔は、あれなりに私達に気を使っているらしい。
「アスタロトは…ティファンが呼び出したんだ。」
「そうだろうなと思ってたよ。…問い掛けに応えた者の在り様によって、あれは姿を変えるからな。」
あれが女神として現れたのなら、ティファンが呼んだとしか考えられなかった。
「…あれは、何で本の中に入る事になったんだ?」
「………何の事を言っている?」
あれは、そういう物だ。
…入る?
元になった何か…誰かがいた…のか……?
「あれは、………だろう?」
「なんだって?…良く聞こえなかった、もう一度……」
しかしながらホルは暫し考えを巡らした後に、軽く頭を左右に振った。
「駄目らしい。」
「何がだ?」
「阻害された。」
「……何⁈」
ホルは軽く眉を顰めており、それに付いて話す事は無さそうだった。
「アスタロトからじゃなさそうだ。…だとすると……オルスか。」
黙って先を促す。
「言うのは今じゃ無い、らしい。」
ホルが少し楽しげに笑う。
「…昔の話だ。」
昔の…。
つい先日まで、悩まされていた事が蘇る。
「…あの時代にアイツが関係あるのか?……いたのか?」
明らかにホルが返答に困っている。
「気になるようなら、帰ってから本人に聞いてくれ。…彼は覚えている筈だ。」
「オルスが、か?…アイツはあまり覚えていない様だったが…」
「こっちに戻ってこないつもりなんだろうな。…随分繋がりが薄くなった。レイチェルと居られる場所へ向かう積もりらしい。…それでも彼がここから何も引き出せない筈が無い。」
…分かってはいるつもりだったが、どうやらオルスは食えない男だったという事の様だ。
ふと、ホルが揶揄うかの様な眼差しを見せた。
「…何だ?」
「いや……妹で無くて悪かったな。」
……!!!
「そっ、それは…忘れてくれっっ!」
ホルは楽しげに笑うだけで、何も言わなかった。
…コイツ、こんな奴だったか?
それだけ今が幸せという事なのだろう。
屋敷の中は塔であった頃の名残か、私がいた頃程では無いものの、未だ壁中に本が仕舞い込まれていた。
シアンが興味を示し、本の背表紙を片っ端から見ていく姿を、後ろからただ苦笑しながら見守った。
草原に腰を下ろし雑談していると、時折何かが胸に訪れようとはしたものの、先程の様にはならなかった。
あれは…アスタロトに救われたな。
シアンの声は届いてはいたのだが、それよりもティファンの事しか考えられなくなっていた。
「落ち着いたか。」
ホルが隣に座る。
辺りに目を配ると、ティファンとシアンは寄り添いながら語り合い、リュークはそれを近くで見守っており、アスタロトは幾らか離れた所で空を見上げて寝転んでいる。
赤毛の元悪魔は、あれなりに私達に気を使っているらしい。
「アスタロトは…ティファンが呼び出したんだ。」
「そうだろうなと思ってたよ。…問い掛けに応えた者の在り様によって、あれは姿を変えるからな。」
あれが女神として現れたのなら、ティファンが呼んだとしか考えられなかった。
「…あれは、何で本の中に入る事になったんだ?」
「………何の事を言っている?」
あれは、そういう物だ。
…入る?
元になった何か…誰かがいた…のか……?
「あれは、………だろう?」
「なんだって?…良く聞こえなかった、もう一度……」
しかしながらホルは暫し考えを巡らした後に、軽く頭を左右に振った。
「駄目らしい。」
「何がだ?」
「阻害された。」
「……何⁈」
ホルは軽く眉を顰めており、それに付いて話す事は無さそうだった。
「アスタロトからじゃなさそうだ。…だとすると……オルスか。」
黙って先を促す。
「言うのは今じゃ無い、らしい。」
ホルが少し楽しげに笑う。
「…昔の話だ。」
昔の…。
つい先日まで、悩まされていた事が蘇る。
「…あの時代にアイツが関係あるのか?……いたのか?」
明らかにホルが返答に困っている。
「気になるようなら、帰ってから本人に聞いてくれ。…彼は覚えている筈だ。」
「オルスが、か?…アイツはあまり覚えていない様だったが…」
「こっちに戻ってこないつもりなんだろうな。…随分繋がりが薄くなった。レイチェルと居られる場所へ向かう積もりらしい。…それでも彼がここから何も引き出せない筈が無い。」
…分かってはいるつもりだったが、どうやらオルスは食えない男だったという事の様だ。
ふと、ホルが揶揄うかの様な眼差しを見せた。
「…何だ?」
「いや……妹で無くて悪かったな。」
……!!!
「そっ、それは…忘れてくれっっ!」
ホルは楽しげに笑うだけで、何も言わなかった。
…コイツ、こんな奴だったか?
それだけ今が幸せという事なのだろう。
更新日:2022-12-01 17:44:55