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第5話「タクヤ争奪戦」

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巨大なアリーナを出た後、リカはタクヤを連れて近くの洒落た喫茶店にはいった。かなり年季が入っていたがレンガ造りの歴史を感じさせる店だった。
 タクヤはいままで女子と二人で食事に来たことなんてなかった。店に入るなりリカは店主にカウンターの希望を出して慎ましくタクヤのとなりに座った。
「タクヤくんは注文なににする?」
「俺はトマトジュースで」
 数多くあるソフトドリンクで自分のお気に入りのものを指差した。
「タクヤくんは健康志向なのね。私、クリームソーダにしようかな。それとお腹すいたからサンドイッチも頼んでいい?」
「ああ、もちろんだ。好きなだけ頼んでくれ」
 オーダーをして数分後、頼んだメニューが次々と運ばれてきた。
「タクヤくん、緊張しているの?」
 少し赤面したリカが言うと彼も頬を紅潮させ、うなずいた。
「ああっ、まあ、二人で、しかも女の子と一緒にこういうところに来ることってこれまでなかったものだから……」
 緊張感マックスでタクヤが言うと彼女はサンドイッチの一つを分けた。
「私も男の子とふたりでこういうところに来るのはじめてなの。私も緊張するけど一緒に楽しみましょう」
 その一言でタクヤの緊張が少し解けた気がした。彼女の天使のような笑みにぐっときてしまい抱きしめたい衝動に駆られた。鼓動が激しくなってきたのをリカも感じたようで彼女も目を細めた。
「いいよ……」
 なんの「いいよ」なのかその時理解できなかったがタクヤは左手で彼女の肩を自分の身に引き寄せた。彼女の温かい体温が自分の体にしみわたる。
 とてもじゃないがタクヤはサンドイッチを集中して食べられる気分ではなかった。タクヤとリカはしばらくなにも話さずに赤面したまま密着していた。
「タクヤくん……」
「あっごめん、嫌だったよな。おなか空いたよな。気にせず食べてくれ」
「ううん、違うの。タクヤくん。お腹は空いたけど食べ終わったらまたしてくれる?」
 それは彼女からの強い意志表示だった。
「いいのか?」
「うん、タクヤくんは嫌?」

更新日:2022-11-21 22:24:30

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