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第3話「それぞれの修行」

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 アムステル国の北方地区にあるアムステル山脈の山麓➖➖
 アムステル山脈は平均標高四千メートルもある巨大な山脈であり、平均気温もマイナス二十度以下の極寒地獄だった。そこで過酷な修行を行う一人の少女がいた。
 その名前はクク
 淡青色の髪とスカイブルー色の瞳をしており、ミントブルー色の魔法ロープを羽織っている可憐な少女で規格外の魔力をもっていた。
 ククは風変わりな魔導師である杏仁智広に連れられて北方にある霊山で儀式を行うためにそのふもとにある山小屋の前で焚き火をしていた。この霊山は五百年前に智広の手によって特殊結界魔法がかけられており、他の魔導師を寄せ付けないつくりになっていた。
 ククは何度も体の表皮を凍結させられそのたびに顔を激しく歪ませた。
「修行が足りないな、クク」
「いいや、今、マイナス百二十度ですけどね。智広様は寒くないのですか?」
「うーん。寒いという感覚そのものがわからないかな。なにせ魔人なんでね」
 智広がとぼけたように言うとククは彼女にこの質問をしたことを後悔した。そもそも彼女の肉体は生身ではない。彼女の魂を封じ込めるための器でしかない。血の気がなく灰色の肌をしており、全身は氷のように冷たい。身長は二メートル近くもあり、黒い魔導師ロープに身を包んでいた。自分のように肉体が何かを欲することも皆無だ。食欲とか睡眠欲とか性欲とか。今だってお腹が空きすぎて腹がグウグウとなっていた。智広による修行のために何日も何も食べていなかったし眠ってもいない。頭もフラフラする。
彼女はのんきにうつろな目で、霊山の山頂をじっと眺めていた。
「そろそろなにか食べたいんですけど?」
「ああ、そういえばもう三日ほど食事していなかったね。お腹すいた?」
「いいやお腹すきすぎて死にそうなんですけど!」
「悪い悪い。じゃあこれどうぞ」
 智広は冷笑しながら自分のバッグからホワイトチョコレートを取り出した。ククがそれを口にした瞬間、唇にチョコレートがひっついてしまい、離れなくなってしまった。おまけに凍結してしまい、眉間に深い縦じわを寄せた。
 智広は彼女の唇に手を当てて凍結を治癒して、彼女の体に魔法をかけて血糖値を改善させた。
「これでいいかい?」

更新日:2022-11-09 22:47:24

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