僕は弱味の連鎖から逃れる事が出来ない。次々と弱味を握り潰す為に手を汚すも其れは新たな弱味を僕の前に転がしてゆく。僕が『端本』と名乗り、偶々担当の課長が其れを聞いてしまったが故の。だから僕は……「止めろ、お前は何をやろうとしているのかわかっているのかああ！」地獄の残業デー三日目にして課長を転落死させる－－人が強く打って死ぬ瞬間を血液が頭に登りそうな程見つめてわかった……人の原型をしていないじゃないか、こんなの！

　其れから僕は周辺の警戒を怠らない。弱味の原因は何時だって誰かの目が届く時に起こる物。あの男を殺して其れを目撃したOL。其のOLの弱味を解消する為に即殺して其れが実の妹でJKに目撃されて殺人を強要される。だが、強要された殺人を行おうとした時、安藤の姿を見て絶好のチャンスを得た。そうして殺害対象の安藤と手を組んで其のJKを殺害。

　話を戻すが協力者の安藤は居ない。其れが課長に弱みを握られる原因を作る。だから僕は課長を殺して弱味を握り潰す。とはいえ、何時迄も手袋を付けていると怪しまれる。脱いでから懐に仕舞おう。間違っても会社に捨てると其処から僕の犯行がバレてしまうからな。とはいえ、悪の断捨離もしないといけない。持っているだけで新たな弱味に成るからな。

　其れから僕は何食わぬ顔で会社に出社して課長の訃報を聞いたり、警察の事情聴取に協力もする。不用意な発言はしないよう慎重に且つブチャラティに舐められないよう汗も抑える。汗が少し出るだけで怪しまれるしな。なので足に水分を出させて誤魔化す。

　とはいえ、相手は警察だ。天下の神奈川県警なら誤魔化しは聞くだろうが此処は神奈川県ではない。故に何時迄も同じ誤魔化しが通用するとは思えない。そんな訳で僕は敢えて怪しい行動を採る。其れが普段通う事が有り得ないランジェリーショップに立ち寄ってバストDカップ以上Eカップ以下に着用可能なブラジャーを種類毎に購入。店員や周囲の客をドン引きさせながら殺人事件で頭がおかしく成った人間を演じる。

　おまけに社会的信用を大きく毀損するかも知れん事を承知で買ったばかりのブラジャーの一つを嗅いで態とらしい変態パフォーマンスをする。但し、やり過ぎると其れで警察に捕まると踏まえて敢えて赤っ恥に気付いたフリをして早々に立ち去る事も辞さない。

　翌日、僕は社内で変態ブラジャー野郎として皆から白い眼で見られる。無論、他の上司からも有休を使った休暇を勧められる程心配される。其れでも僕は……「だ、大丈夫です。仕事中は必要な事に専念し、休憩時は一人に成りますから」と敢えて気遣いの出来る人間のフリをして何とか警察の捜査網から逃れようと演技をしてゆく。

　其の演技も在って警察は課長殺しの犯人から僕を除外しようと動き出す……筈だった－－警察の中に途轍もなく勘の鋭い男が居た！

　其れは残業二時間三十分後に退社したばかりの事だった……「おやおや、ねえねえ……昨日は行動が余りにも不自然でしたよ」早速服の上にブラジャーを着込んで退社する僕に話し掛ける私服警官が手帳を見せながら自己紹介を始めてゆく。

　奴の名前は『吉川銀次（よしかわ　ぎんじ）』と名乗る。何でもずっと僕が起こした数々の事件を追っている敏腕警部補らしい……「えっと其の、吉川刑事は何で僕を？」僕は狙いを読む為に尋ねる。

「フン、あんたがあの『藤堂平吉事件』の関係者だってとっくの昔に気付いているからさ！」

「と、藤堂って……幾ら何でも僕があいつの事でとやかく言われるってのか！」

「ええ、確か当時の虐めっ子がね……半年前に意識不明の重体に在って、遂最近息を引き取りました」

「え？　だ、誰の事だよ！」

「おやおや、あんたは白を切れるんだね。まあ良いや」僕は表情や汗でこそ誤魔化せても眼が濁るように誤魔化せていない気がする。「名前を『安井那津男（やすい　なつお）』だ。彼は異常値とも言える薬漬けをされて植物状態にされた。然ももっと不審なのが彼の持ち物は財布を除いてほぼ全て処分されている。然も最後に会ったのが……あんたの筈だが？」

　煙草を吹かしながら其の無精髭が汚い刑事は其処迄辿り着いている事に僕は恐ろしさを感じるね……「安井、那津男……ああ、あいつね。あいつのせい藤堂死んでしまったもんな。あいつが虐めたせいで！」とあの時と同じく自分の関与を否定するかのように喋る僕。

「嘘を吐くなよ……首を括って死んだ藤堂平吉を殺したのは、あんただろ？」

「な、何を言っているんだよ。括らせたのは安井や峰岸や羽鳥だろ！」

「最近亡くなった安井も含めて『峰岸南（みねぎし　みなみ）』も『羽鳥新吉（はとり　しんきち）』も虐め事件から二週間から四週間後に不審死を遂げている。あんたの仕業だろ、自分の関与を揉み消す為に！」

　僕は、其れについて……やっていない！

　今回は此処迄だ！