と或る街の深夜未明だった。ホームレスが日当を稼ぐ為に町中野塵を漁っている時だった。塵袋に詰め込まれた重くそして冷たい何かを見たり触ったりして……「ギイイアアアアア、人間だああ……だ、誰かスマホで警察をおおおお！」と叫ぶ始末。当初ホームレスを見下す住民達は寝言だと思って相手をしなかった。だが、心優しい益せた小学生級の少年が駆け寄ると其れは……「あれ？　此の人、何で塵袋の中に隠れて……死体？」本物で在ると確認し、悲鳴の連鎖が起きて漸く通報へと至る！

　早朝……現場に駆け付けた警察官達。彼等が其の死体の身元を確認すると……「死亡したのは此の近辺に在る底辺高校の生徒で名前を『安清間太郎（やすきよ　またろう）』、十七歳っすね。不良の番長をしていたらしいっすよ」と判明。死因は胸部陥没に依る心肺停止との事。然も鈍器のような何かで其れを正確に穿つように！

「何処の臥王龍鬼だよ、鳩尾を抉るように鈍器で殺すなんて技術が在るか……処で安清は不良だとわかったがどんな奴なのだ？」

「其れが、カップルを見付けては其の女を白昼堂々と処女を奪って其の写真を相手の男性に見付けて心を壊すのが好きな下衆ですよ」

「胸糞悪いな……って此れって！」

「植草さん、若しや！」

「ああ、警察は此の『連続寝取り魔殺人事件』の犯人を通称『NTRスレイヤー』と命名している。今回で二十七件目だ。兎に角、此処鹿鳴町に在る『鹿鳴大学付属高校』の校長『宮之阪厳角（ミヤノサカ　ゲンカク）』を直ぐに参考人招致しろ！」

「あ、其れがですね……植草さん。其の宮之阪校長は既に転勤しました！」

「……ハアアアあ、何時転勤したんだよお！」

「其れが此の事件が起こる二週間前に、ですよ」

「有り得んな。安清が此の二週間の内に行方不明に成ったという話は奴の子分に聞いたってそんな話は知らんと言っている位だ。一体如何やってアリバイを作ったんだ！」

「か、考えても無駄でしょう。植草さん、宮之阪校長以外の容疑者を探しましょう……ね？」

「有無、其の線でも行くか……」警部補『植草幸之進（ウエクサ　ユキノシン）』は『NTRスレイヤー』の逮捕に尽力する－－其処には彼自身、警察官としての矜持が在る為に！


　一方の此の物語の主人公にして寝取りを誰よりも憎む五十七歳の教諭『宮之阪厳角』は何処に転勤するのか？　其れは『馬波南高等学校』の校長として何食わぬ顔でスピーチをしていた……「という訳で馴れない身で在りますが、如何ぞ宜しくお願いしますね」新学期を初々しい気持ちで迎えている。

　不自然に映るのは彼の眼元に残る隈は安清殺害に充てたかの如く……