- 1 / 1 ページ
主人の遺筆に生霊となった体験談がございましたので投稿致します
私には霊感がなく超自然現象に遭遇したのは数える程だが、せっかくの機会なので書いておく。私の異常体験は自分が生霊になったことだ。『源氏物語』に登場する六条御息所で有名な生霊だが、生憎と私は生霊になった状態での記憶がないので、実際どうなっているのか皆目分からない。私の生霊を目撃した者たちが後から教えてくれるだけなのだ。その実例を挙げると――私が小学生の頃、高熱で学校を休んだときがあった。その日の給食は大好物のプリンだったので寝床の中で私は泣きに泣いた。やがて泣き疲れ眠ってしまったのだが、起きたら母が変な顔をしている。学校から電話があって、私が校長室に現れ「俺のプリンを食うなと教室の皆に言え」と校長へ偉そうに命令してから姿を消したのだけれど、どうなっているのだと担任が慌てふためいて母に言ったらしい。面食らったのは母も同じで「お前の学校の教師はおかしいんじゃないか」と首を傾げていたものだった。風邪が治って学校へ行ったときは、何か言われるかと思ったけど、何も言われず、そのまま卒業の日を迎えた。卒業式の壇上で、私に命令された校長から卒業証書を授与されたときは、校長と顔を合わせてお互い無言で笑った。
次の生霊体験は高校の時だ。初めて異性と交際し浮かれ気分だった私に、良くない噂が聞こえてきた。彼女が浮気をしているというのである。信じられない、信じたくない、でも万が一、浮気していたら……と悶々する日々が続いていたら高熱が出た。学校を休み家で寝ていたら、彼女から電話が来た。「今、家に来たよね。二階のベランダから私の部屋を覗いていたよね。泣きそうな顔で見ていたよね!」と訊いてくる。そんなわけないと言ったら電話に他の男が出て「嘘吐くんじゃねえぞコラ」と喧嘩口調なので、こっちも腹が立って「き、君は誰なの?」と訊いたら彼氏だってさ、ギャフン。翌日、彼女をとっちめてやろうと意気込んで学校へ行ったら、彼女は欠席していた。翌日も姿を見せない。担任の説明によると、病気になって入院したのだという。そのまま彼女は休学した。そして結局、学校へ来ないまま退学した。高校卒業後しばらく経って開かれた同窓会で耳にした話によると、彼女は本命の彼氏に浮気がバレて殴られ再起不能になってしまったそうだ……あっちが本命だったのか、と思って驚いた記憶は同窓会から十数年を経た今も文鮮明だ、間違えた、鮮明だ。嫌な思い出だけど、ヤバい男と付き合っていた彼女には、今となっては同情する。一人は暴力男で、一人は生霊男だ。男運がないのは間違いない。
最近の異常体験も生霊関連で、これは現在進行形だ。妻から私に連絡が入った。不治の病で入院中の娘が「毎晩パパが会いに来る」と言い出した、症状が進行し幻覚を見るようになったと主治医は説明し、意識があるうちに父親を呼ぶよう言っている、と妻は涙声だが最前線の将校が私事で地元へ戻るわけにはいかない。そう伝えたら妻に「薄情者!」と罵られた。軍人の妻なのに、敵前逃亡は銃殺という軍隊のルールを理解してくれないのは一体どういうことか、と思ったが……我が子の病状が悪化し余命宣告されている状態なのだから、半狂乱になるのも当然だ。ただ、こちらも狂乱状態にあることを分かってもらいたいとは思う。今日も、娘と同じくらいの年齢の子供の死体を数多く見かけた。戦闘の巻き添えに遭って死んだのだ。子供たちの死骸を見ると最初は可哀想で涙が止まらなかったけれど、いつの間にか慣れた。神経が麻痺してきたのか、もう半分くらい狂気に浸ってしまっているのだろう。それでも、瞼を閉じると子供たちの苦悶の死に顔が頭に浮かんできて、不眠気味だ。うつらうつらとしているとき、自分は生霊となって妻子の元へ帰っているのかもな、と思う。だけど私は昔から生霊になったときの記憶がないので、せっかく家族と会えたとしても、それほど満足感がないのが残念だ。一応、妻に「生霊となって毎夜帰っているよ」とメールしたら着信拒否された、なんでやねん。でも妻は私の分まで必死になって娘を看病しているのだから、悪く言うつもりはない。きっと戦場で死ぬであろう私と病で夭折する娘の分まで幸せになって欲しいと願う、それだけだ。
最後に、私が最も恐れていることを書く。死ぬことは、それほど怖くはない。戦場を離れられるのなら何だって構わないという気分は正直ある。だが、このまま娘と会えずに一生が終わりそうで、これが悔しくてたまらない。それでも、死後に娘と会えるのなら、まだ良い。罪無くして死ぬ娘は天国へ昇天し、人殺しの父親である私は地獄へ落ちるだろうから、死んだ後も娘とすれ違いになりそうで、それが怖い。人生で最大の恐怖は、恐らくそれだと思う。娘が生霊になって会いに来てくれたら嬉しいのだが……こういった生霊体質は遺伝しないのかと、戦闘の合間を縫って真面目に考えている。
次の生霊体験は高校の時だ。初めて異性と交際し浮かれ気分だった私に、良くない噂が聞こえてきた。彼女が浮気をしているというのである。信じられない、信じたくない、でも万が一、浮気していたら……と悶々する日々が続いていたら高熱が出た。学校を休み家で寝ていたら、彼女から電話が来た。「今、家に来たよね。二階のベランダから私の部屋を覗いていたよね。泣きそうな顔で見ていたよね!」と訊いてくる。そんなわけないと言ったら電話に他の男が出て「嘘吐くんじゃねえぞコラ」と喧嘩口調なので、こっちも腹が立って「き、君は誰なの?」と訊いたら彼氏だってさ、ギャフン。翌日、彼女をとっちめてやろうと意気込んで学校へ行ったら、彼女は欠席していた。翌日も姿を見せない。担任の説明によると、病気になって入院したのだという。そのまま彼女は休学した。そして結局、学校へ来ないまま退学した。高校卒業後しばらく経って開かれた同窓会で耳にした話によると、彼女は本命の彼氏に浮気がバレて殴られ再起不能になってしまったそうだ……あっちが本命だったのか、と思って驚いた記憶は同窓会から十数年を経た今も文鮮明だ、間違えた、鮮明だ。嫌な思い出だけど、ヤバい男と付き合っていた彼女には、今となっては同情する。一人は暴力男で、一人は生霊男だ。男運がないのは間違いない。
最近の異常体験も生霊関連で、これは現在進行形だ。妻から私に連絡が入った。不治の病で入院中の娘が「毎晩パパが会いに来る」と言い出した、症状が進行し幻覚を見るようになったと主治医は説明し、意識があるうちに父親を呼ぶよう言っている、と妻は涙声だが最前線の将校が私事で地元へ戻るわけにはいかない。そう伝えたら妻に「薄情者!」と罵られた。軍人の妻なのに、敵前逃亡は銃殺という軍隊のルールを理解してくれないのは一体どういうことか、と思ったが……我が子の病状が悪化し余命宣告されている状態なのだから、半狂乱になるのも当然だ。ただ、こちらも狂乱状態にあることを分かってもらいたいとは思う。今日も、娘と同じくらいの年齢の子供の死体を数多く見かけた。戦闘の巻き添えに遭って死んだのだ。子供たちの死骸を見ると最初は可哀想で涙が止まらなかったけれど、いつの間にか慣れた。神経が麻痺してきたのか、もう半分くらい狂気に浸ってしまっているのだろう。それでも、瞼を閉じると子供たちの苦悶の死に顔が頭に浮かんできて、不眠気味だ。うつらうつらとしているとき、自分は生霊となって妻子の元へ帰っているのかもな、と思う。だけど私は昔から生霊になったときの記憶がないので、せっかく家族と会えたとしても、それほど満足感がないのが残念だ。一応、妻に「生霊となって毎夜帰っているよ」とメールしたら着信拒否された、なんでやねん。でも妻は私の分まで必死になって娘を看病しているのだから、悪く言うつもりはない。きっと戦場で死ぬであろう私と病で夭折する娘の分まで幸せになって欲しいと願う、それだけだ。
最後に、私が最も恐れていることを書く。死ぬことは、それほど怖くはない。戦場を離れられるのなら何だって構わないという気分は正直ある。だが、このまま娘と会えずに一生が終わりそうで、これが悔しくてたまらない。それでも、死後に娘と会えるのなら、まだ良い。罪無くして死ぬ娘は天国へ昇天し、人殺しの父親である私は地獄へ落ちるだろうから、死んだ後も娘とすれ違いになりそうで、それが怖い。人生で最大の恐怖は、恐らくそれだと思う。娘が生霊になって会いに来てくれたら嬉しいのだが……こういった生霊体質は遺伝しないのかと、戦闘の合間を縫って真面目に考えている。
更新日:2022-10-18 20:51:48