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10月

お題:記憶のわずらい #    23:55 2022/09/28 加筆修正 0:00 2022/09/29

「うう……」
「無理して思い出さなくていいのよ?」
 俺は余命幾ばくかの病気を患っていたらしい。それが、記憶とともに消えてしまったらしい。病気が治ったことは嬉しい。俺の前には遠く遠く未来が拡がり出したのだ! ……しかし、こうやって病気とともに抜け落ちた記憶が、どうにも重要だと思えてならない。
「俺の忘れた記憶って、」
「思い出さなくていいのよ、せっかく病気も治ったんだから」
 母はなくした記憶の代わりに手に入れた元気な俺に心底喜んだ。なくなった記憶について問うても、病気とともに消えたのだから邪魔なものだったのだから思い出さなくていい、忘れたままにした方がいいと考えているようだった。
 そのとき、いきなり病室のドアがノックなしに開けられた。ぎょっとして見ると、ひとりの女の人。
「良かった、気がついたのね」
「…………誰?」
 彼女の表情が強張った。きっと、俺が忘れてしまった重要なことは彼女だったのだ。




お題:永遠の医者    17:29 2022/09/30

 移住してきた私は、随分、都会の便利さに慣れてしまっているようで、尋常じゃない腹痛を訴えようにも、ここの診療所はとっくに終業していて、隣町まで行かないと夜間に対応してくれる医者はなかった。
「大変だったねえ、もう動いていいの?」
「はい、もう大丈夫です!」
 昔から丈夫だった。もうけろりとしている。
「ここら辺にも、夜間診療してくれる先生がいたんだけどねえ」
「そうなんですか?」
「そうよお。今の先生とは違って、夜中でも対応してくれたのよ。手術が必要となれば、手術できる病院と橋渡し役になって。いい先生だったわ」
 疑問には思っていた。現先生より前の先生の方がまだ認知度が高い。もう何十年も前の先生なのに。だけどなるほど、そんなありがたい先生がいたから、覚えられているわけか。




お題:せつない孤島    17:06 2022/10/01

 だいぶ本島から離れた島に来た。砂浜からの海にはどこにも視界を遮るものがない。
 でも無人島ではなかった……はず。まあ無人島でも、誰と交流するわけでもないからいいか。
 …………それにしても久しぶりの海だ。元カレは山の方が好きだったから、自然と海から遠のいてしまった。私自身は海が好き。海で泳ぎたいがためにカナヅチを克服したぐらいに、好き。
「それでも合わせたんだけどなあ……ぐすっ」
 山が好きだと言うから、大好きな海を封印して山登りにだっていっぱい行ったのに。結果はサイアク、浮気されてフラれた。
「……忘れるために来たんだから、思い出さない!」
 この島は外部から孤立している。電波は入らない。だから余計な情報は入らないわけで、現状、余計な情報ばかりの私にはもってこいの場。…………デジタルデトックスだ。
「よし、泳ごう」
 元カレの情報なんて要らない。島よりも更なる遮断が欲しくて、海に飛び込んだ。

更新日:2022-10-02 02:27:30

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