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03 セクシーお姉さん

「うっ、ぎゃああああああぁぁぁぁぁっっっ!!」

 突然、はるか上空から甲高い少女の叫び声が広場中に響き渡ると、そのままバス停の屋根に音を立てて落下する。
 ズンと走るその衝撃に、次々と悲鳴が上がり辺りは騒然となっている。

「痛っったあああぁぁぁっっっ!!」

 少女の叫び声。大丈夫なの、これ?

「あのバカッ!」

 忌々しそうにショウタは叫ぶと駆け出した。どうやら彼女が新しい補充要員なのだろう。
 腰を押さえつつ、くの字に体を曲げながら少女は降りて来る。
 周りの人々は何事かと凝視していたのだけど、ショウタがパッと駆け寄ると、

「皆さん、大変お騒がせ致しました。見世物ではありませんから、どうぞお気になさらぬようお願い致しますっ!」
 
 そう叫びながら、野次馬たちを笑顔で追い払い始めたのである。
 
 オレはと言えば、空から降って来たその少女に目を奪われていた。
 今にも吸い込まれそうなつぶらな瞳。まるで天使そのもののような美貌の少女。

 ばちりと目が合った。
 少女はニッコリと微笑むや、野次馬達をショウタに預け、つかつかと勢い込んでオレの許までやって来た。

「初めまして。私は四谷シノです。キミが五砲ホノオさん? どうぞヨロシクねっ!」

 握手を求めて来たので応じると、細く柔らかいんだけど、芯のある両手でオレの右手をしっかりと握り締めて来るのだ。

 頬を紅潮させてニコニコと微笑む彼女。なかなか手を放そうとしてくれないんだけど。

「ホンとキミの手って、絵描きさんの手なんですね。とっても期待できそう」

 そう言ってじゅるりと舌なめずりするのだ。

「おやぁ~っ? これって、出来立てほやほやのキミの作品ですよね? 見せて下さいっ!」

 とにかく、矢継ぎ早に畳みかけて来る。

 彼女は目敏くクロッキー帳に手を伸ばすと、ぱらぱらと紙面をめくり始めた。
 顎に手をやってうんうんと頷いたり、首を捻ったり傾げたりしている様子は、なかなかこなれたものだ。

「うんっ! キミってさ、若い子描くの苦手なんですねっ!」

 コイツ! オレの弱点を速攻で見抜きやがったっ!

 それにしても、間近で見ていると何だかコイツ、顔もスタイルも相当に抜群だな。
 でも、彼女が正統派美少女過ぎるせいなのか、色気が全く微塵も感じられないんだよね。

 すると、シノはオレが考えを巡らしていることに、何だか悪い意味でピーンと来たようで。
 黒スーツのチャックを降ろして胸元の谷間を強調し、セクシーお姉さんのようにウッフゥ~ンなポーズで構えるのであった。

更新日:2024-01-22 21:01:09

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