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「それで、……お姉さんはホノオさんを本物の絵描きにしたいと思っているようですけど……、実際の話、食べて行けるものなんですか?」

 シノの問いに、ヨウ姉さんは顎に手をやって考えた顔をする。

「ホノオ達には口を酸っぱくして言っているんだけどさ。今は時代が悪いかなぁって、……だから絵描きになるからには覚悟してかかれってね」

「時代? この時代は平和な世の中ですよね?」

「今は不景気でね、全然絵が売れないのよ。だから、単なるいい絵ではダメだね。新時代を切り開いてやるぞっていう野心、ノリのいいドバァ~っとした心意気が必要なのよ!」

「例えば?」

「美術部の学生たちには、モチーフの2割増しで仕上げろって伝えているわ。だから、そのモチーフが100%の美であれば、2割増しの120%の美に仕上げろってね。まぁ、なかなか100%の美にはお目にかかれないものなんだけどさ。そこは運も実力のウチっつぅことでね、……とにかくっ、やる気でカバーしろって伝えているわっ!」

 ヨウ姉さんはホノオを絵描きにするために、沢山の知識と技術と経験を与えて来た。
 シノにしてみると、その姉の心構えは大変理想的であり、好都合であるとさえ言えた。
 姉とは利害が一致する。それがシノの感想である。

「ねぇホノオさん、いいからよぉ~っく聞いて下さいね。キミには絵の才能がある。だって、バルボラの天使が2人も来ているんですよ。だからワカりますよね?」

「あぁ。まぁそうかもな」

 ホノオは自分の才能云々を人から言われ、体の芯がこそばゆくなる。

「まぁいいや。とりあえずシノちゃん、ホノオのことよろしく頼むね!」

 ヨウ姉さんが右手を差し出すと、シノは笑顔で両手を差し出しながら、

「では、さっそく協定を結びましょう!」

「協定?」

 協定という聞きなれない言葉に、姉はちょっち怪訝な顔をした。

「はい、ホノオさんを立派な絵描きにしてみせると。私ね、……彼のファン2号なんです!」

 うふふと笑うシノ。

「うん、いいね。なら私はファン1号だ!」

 姉もニコリと笑った。

「私達はバルボラの天使です。どうぞご期待下さい」

 シノが意志的な顔つきで強く握り返して来る。

「そうだシノちゃん。今度ウチの蔵ン中覗いてみるといいよ」

「蔵ですね。了解しました!」

 蔵には、シノとよく似た少女の肖像画が、今も大事に保管されている。シノとしても、その絵画に大変興味があった。
 シノがニコリと笑い返すと、ヨウ姉さんはホノオの方に向き直り、

「ホノオ、……もうここに来ちゃダメだよ!」

 姉から念を押すように告げられ、彼はシュンとして無言で頷いた。
 そんなホノオを見て、シノはホノオが未だにヨウ姉さんを慕っているのだとワカり、少なからず心が傷つくのであった。

   *          *

 「角の生えたサルたち」連載第8話です。
 ここで、シノとヨウ姉さんとの間で軽い舌戦が起こります。

 喧嘩慣れしたシノが感情むき出しでヨウ姉さんに迫りますけど、そこは年の功で上手くいなされてしまいました。
 結果、2人はお互いを認め合い、ホノオを絵描きにするという一点で協定を結ぶことになりました。
 でも、シノの心はちょっぴり複雑です。
 
 どうぞヨロシクねっ!

更新日:2024-01-22 22:23:04

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