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07 私はシノちゃんに子供の頃から憧れていた

 今日は1週間ぶりの非番である。
 午前中に溜まった洗濯物を片付け、部屋の掃除をし、布団を干し、街の唯一のデパートの食品売り場で買った、ちょっち財布に厳しいお惣菜を平らげて、午後の作業に向けて少しずつモチベーションを高めていたのだ。

 待ちに待った午後が来た。
 近場で採れた野草を花瓶に活けて、イーゼルにA2サイズの画板を置き、丸椅子に腰かけると、モチーフに向き合うべく眼を閉じて深呼吸をした。
 
 今日の私はノレている。気持ちも手の指先も対象物に真っ直ぐに向き合い、木炭の先端が揺れることもなく、緻密に描写できている。

 あぁ、まさに至福のひととき。
 そんな時に、ホノオはバルボラの天使を連れて来たのだ。それも2人もである。

 この四谷シノという少女。無性にピュアでかわいくて、理想的な肢体で美しい少女なんだけど。
 何でかなぁ、私のことを妙にジロジロと意識的に見たり、睨みつけて来るというか。
 そうだよね、ウザ絡みして来るよね。

 やっぱりそうかな。おそらくこの子、ホノオのことが好きなんじゃないかな? 
 もしかして、私のことを恋敵だと勘違いしているのかな? 

 うふふ、とぉっても面白い。
 だって私はシノちゃんに子供の頃から憧れていたんだからね。そしてこの子こそ、私達の一族の運命を変えてしまった張本人なのだから。

 私はシノちゃんに曾祖父、五砲敏千が南フランスで画業を諦め、かねてより憧れていた日本に向かった経緯を話した。

 すると、シノちゃんは驚いた顔をして、ヴィンセントさんは本来なら南フランスで亡くなっていたはずなのに、何で来日して長寿を全うしたのかと素直に訊ねて来た。

 だから、ホンとのことを伝えた。
 曾祖父はシノちゃんに憧れ、遠い日本まで追いかけて来たのだということを。

 そう伝えると、キミは顔を赤くして、照れたような当惑したような、自分が好意を持たれていたことへの戸惑いの気持ちに溢れた顔をした。
 その表情は、私の心を強く揺り動かすものだった。
 
 シノちゃんに、キミの絵を描かせてくれないかと率直に訊ねた。
 すると、キミは得意満面な顔をして、一枚のクロッキーデッサンを私に差し出した。

 それはホノオが先程描いた作品で、一瞬にして全てを理解できるものであった。
 これこそが義弟五砲ホノオの実力であり、未来世界からワザワザ機関が2人もヒトを寄こす程のものだということが。

更新日:2022-08-26 13:45:49

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