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06 私が求めた人間の鮮やかな生な感覚

 シノは先程のショウタのサポタージュに、一瞬目を剝いたりしていたのであるけれど、それとは別に、この過去世界の若者達の人間模様を十二分に堪能していた。

 あぁ面白いなぁ、素晴らしいなぁと思い始めていたのである。

 人間は『恋愛』とあらば、角の生えたサルのように、感情むき出しであらぬ力を発揮する生き物なのだなぁと。

 これは、計画社会が進行し、結婚相手すら政府のコンピュータが用意するような、そんな硬直した自分達の時代にはない感覚であると。

 まさに私が求めた人間の鮮やかな生な感覚であるのだと。
 
 彼女は意を決すると、がっくりと項垂れているホノオに近づいて、

「ねぇキミ達さぁ、前に何かあったのですかね?」

 まるで、宝物を手に入れた子供のような笑顔で、彼にそう訊ねたのだ。
 ホノオは見上げると、その笑顔がまるでピュアなオーラを放つ、好奇心に満ちた邪悪な妖精のように思われた。

「全部、オレとヨウ姉さんが悪いんだよ」

 シノは後悔に満ちたホノオの呻くような言葉を聞いて思った。これじゃいかんなぁと。
 私の対象者がこのままダメ人間となって、何も残さずに年老いて朽ちていく。そんな危険な、よくありがちな予感に苛まれてしまう彼女。

 私の使命は、対象者からアイコンを受け取って未来世界に持ち帰ることである。
 そのために皇帝アポロから『恋愛許可』を特例で頂いている。

 なら私は対象者のホノオを色仕掛けで篭絡してもいいワケだし、とにかく描かせさえすればいいのである。

 そう現状を再確認して、今一度彼女は気持ちを震い立たせるのであった。

   *          *

 突然、ゴリオが叫び声を上げた。
 思わずその場にいる誰もがギョッとした顔をして彼を見る。
 凝視したと言って良い。
 
 彼は両腕を高く掲げ、両足を大地に踏ん張り、全身をプルプルと奮い立たせている。
 何だかコイツやらかしそうだなぁと思うと、案の定その巨体を躍らせるように、ホノオ目がけて猛然と飛びかかって来たのである。

 シノは未来世界での訓練で格闘技をマスターしている。だから、突然の攻撃にも何ら臆することなくホノオを守るように前に出て、迎え撃つ姿勢を取って構えたんだけど。

 でも、ホノオはそんな彼女の左肩に手を置いて引き下がらせると、更に前に進み出る。

「ホノオさんっ!」

 侠気を見せられて、思わず声を漏らすシノ。

「大丈夫だからっ!」

 ホノオの言葉に、シノは頬を少しだけ赤くした。
 それで、彼は常人離れした動体視力でゴリオと対峙する。

 その巨体が間近に迫る。限界まで神経を研ぎ澄ませたホノオは、目の端に野次馬達を掻き分けてゴリオの手下が6人駆け込んで来るのを確認していた。

「ほらよぉっとっっ!」

 その瞬間、ホノオは掛け声を上げてゴリオを一本背負いした。
 その巨体は手下の6人目がけて盛大に叩きつけられるのであった。

「お見事っ!」

 思わずシノは手を打って叫んだ。

「テメェッッ! コノヤロォォーッッ!」

 ゴリオはあまりの痛さに星の回る頭を押さえながら、首を振って叫び声を上げる。
 すると、騒ぎを聞きつけた警官数名が警笛を鳴らしながら駆け込んで来た。

「このバカッ! アンタがバッカだから悪いのよっ!」

 リンゴは金切り声を上げて怒鳴ると、ゴリオの頭をパシンと引っ叩いた。
 それからホノオ達に向かって、ほらさっさと行けっ! とばかりに手をシッシとするのである。

「ホノオッ! 急げっ! 警察に捕まるぞっ!」

 ショウタがマウンテンバイクを差し出すので飛び乗ると、ホノオはリンゴに一礼し、シノを後部座席に乗せると、迷うことなくこの場から逃げ出した。
 ショウタも自分のチャリに乗って追いかけて来る。

 マホはこの隙に取り巻きの女子共々現場からトンズラできたのだけれど、ゴリオ達は数名の警官らに身柄を取り押さえられていた。

 騒然とした現場からは、少しでも早く遠くまでズラかろう。
 大体ゴリオが暴れたから悪いんだし、それにリンゴが上手くやってくれると思う、たぶん。

 シノがくすくすと笑いながら背中に身を預けて密着して来るのだけど、あいにくとホノオには、その豊かな感触を楽しむ余裕なんてさらさら起こらなかったのである。

更新日:2022-08-26 13:43:31

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