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05 対象者の2割増しで仕上げるべし
「「よぉ~っ画伯。似顔絵ひとつ頼むわっ!」」
はぁっ? って、今度はオマエらかよっ!
マジかよぉ! ホンと最悪のタイミングだよなぁ、このニアミス。
隣街の不良高、県立改進高校のボスカップル、三留ゴリオと九条リンゴのご登場である。
「何だよ。揶揄いにでも来やがったか?」
「いやいやいや。純粋に興味本位だよ」
リンゴのヤツは美麗に整った顔をニヤつかせてそんなことを言うと、マホの背後に立って馴れ馴れしく抱き着くや、全身を揶揄って触りまくり始めたんだけど。
ゴリオはそんなリンゴを止めずに放ったらかしである。
マホのアンタ、コイツを何とかしなさいよっ! 彼女でしょっ! といった咎めるような視線にも、ゴリオはただただむすっとした顔をして黙っているのである。
この敵高のボス2人とは、以前からの知り合いなんだけどさ。実はこっちの親と向こうの親とで、雇い主と労働者っていう関係にあるんだよね。
先日、マホの父親がグループの会社をひとつ整理したんだけど、それに巻き込まれてゴリオ達の父親はリストラされてしまった。
だから、ゴリオ達は確実にこちら側を恨んでいるんだと思う。
まぁ、オレなんかはコイツらからしてみると、絵描き志望のダメ人間と認識されているだろうから、敵認定からは外してあるんだと思う。
問題はマホだ。まさにこの街の支配者たらんとする態度、物腰。全く以って許されざる敵に見えるんじゃないのかな。
周囲には、この辺りの地元2高のハイエリートとワルが勢揃いというワケで、興味本位の人だかりが再び出来つつあった。
マッズぃなぁ、何て思ったんだけど仕方がない。
とりあえず黙ってやり過ごそうかとも思ったんだけど、マホがいる。
相も変わらずお高くとまって澄ましているから、リンゴにいいように弄られてしまっている。参ったね。このままマホのことを放っては置けないよね。
身の丈2メートルはありそうな巨体のゴリオが、オレのことを見下ろして再び似顔絵の依頼をかけて来た。
コイツの狙いがいささか読めないんだけど。まぁリンゴがいるから何とかなるか。
「OK、描くよ」
リンゴはオレが依頼を受けることに意外そうにしていたんだけど、マホの肩に腕を回して、ほっぺを人差し指でつんつんと突きながら、ニマァと笑っている。
似顔絵は、必ず対象者の2割増しで仕上げるべし。とりあえず、それで行こう。
* *
ホノオはいつもと同じ姿勢で一生懸命描いていた。
シノのデッサンを仕上げたことで、強い自信が芽生えていた。ここ数年覆っていた心の靄が晴れ、清々とした気持ちで3Bの鉛筆を走らせることができていたのである。
とにかく本気で、一生懸命自分の持てる力を出し尽くして描き切る。そして出来上がったら対象者から忌憚のない生の意見を頂戴する。
これはいつものルーティンの作業であり、ホノオ達真善美高校美術部員が皆心がけていることなのだから、どんな感想も受け容れる覚悟なのである。
「まぁまぁだな」
ホノオは、愛想のない偉そうな感想を述べるゴリオを静かに見つめていた。
まぁこんなことは慣れっこなのだろう。
未来人達は一歩身を引いたところに立って、俯瞰で状況を観察していた。
作画を終えた彼に嫌味を言い続けるマホにも、腕を組んだまま黙ってデッサンを注視するリンゴにも、少しだけ満足そうなゴリオにも視線を注いでいた。
とりわけホノオの指先の動きを見つめていた。
その指先に、自信がグッと込められているとシノは思った。
「ねぇホノオ君。なら、次はアタシを頼むよ」
そう告げるリンゴに、シノはちらりと目をやった。
長身でリラックスしたデッサン映えのする肢体。
ホノオはリンゴの刺すような視線にひとつ頷くと、おもむろに描き始めた。
この3年間のスランプは、さっきのシノのデッサンで乗り切ることができたはずだ。
だから、もう何ら不安なことはない。
何だって思いのままに描くことができる、彼はそう心の中で強がっていた。
リンゴはホノオの心の葛藤を間近で見て、次第に柔らかい表情に変わっていく。
それでシノは勘付いた。
「ねぇショウタ。ホノオさんとリンゴさんってどういう関係?」
ここでホノオとリンゴ、マホの3人が、実は姉ヨウのお絵描き教室で共に学んだ仲であると初めて伝えられた。
そのことは、事前に渡された資料には全く記載されていなかったのである。
もしかして、他にも意図的に未記載にされたデータがあるのかもしれない。
これはマズい。かなぁ~りマズいじゃんっ!
シノは、思わず大粒の冷や汗をたらりとひとつ垂らすのであった。
はぁっ? って、今度はオマエらかよっ!
マジかよぉ! ホンと最悪のタイミングだよなぁ、このニアミス。
隣街の不良高、県立改進高校のボスカップル、三留ゴリオと九条リンゴのご登場である。
「何だよ。揶揄いにでも来やがったか?」
「いやいやいや。純粋に興味本位だよ」
リンゴのヤツは美麗に整った顔をニヤつかせてそんなことを言うと、マホの背後に立って馴れ馴れしく抱き着くや、全身を揶揄って触りまくり始めたんだけど。
ゴリオはそんなリンゴを止めずに放ったらかしである。
マホのアンタ、コイツを何とかしなさいよっ! 彼女でしょっ! といった咎めるような視線にも、ゴリオはただただむすっとした顔をして黙っているのである。
この敵高のボス2人とは、以前からの知り合いなんだけどさ。実はこっちの親と向こうの親とで、雇い主と労働者っていう関係にあるんだよね。
先日、マホの父親がグループの会社をひとつ整理したんだけど、それに巻き込まれてゴリオ達の父親はリストラされてしまった。
だから、ゴリオ達は確実にこちら側を恨んでいるんだと思う。
まぁ、オレなんかはコイツらからしてみると、絵描き志望のダメ人間と認識されているだろうから、敵認定からは外してあるんだと思う。
問題はマホだ。まさにこの街の支配者たらんとする態度、物腰。全く以って許されざる敵に見えるんじゃないのかな。
周囲には、この辺りの地元2高のハイエリートとワルが勢揃いというワケで、興味本位の人だかりが再び出来つつあった。
マッズぃなぁ、何て思ったんだけど仕方がない。
とりあえず黙ってやり過ごそうかとも思ったんだけど、マホがいる。
相も変わらずお高くとまって澄ましているから、リンゴにいいように弄られてしまっている。参ったね。このままマホのことを放っては置けないよね。
身の丈2メートルはありそうな巨体のゴリオが、オレのことを見下ろして再び似顔絵の依頼をかけて来た。
コイツの狙いがいささか読めないんだけど。まぁリンゴがいるから何とかなるか。
「OK、描くよ」
リンゴはオレが依頼を受けることに意外そうにしていたんだけど、マホの肩に腕を回して、ほっぺを人差し指でつんつんと突きながら、ニマァと笑っている。
似顔絵は、必ず対象者の2割増しで仕上げるべし。とりあえず、それで行こう。
* *
ホノオはいつもと同じ姿勢で一生懸命描いていた。
シノのデッサンを仕上げたことで、強い自信が芽生えていた。ここ数年覆っていた心の靄が晴れ、清々とした気持ちで3Bの鉛筆を走らせることができていたのである。
とにかく本気で、一生懸命自分の持てる力を出し尽くして描き切る。そして出来上がったら対象者から忌憚のない生の意見を頂戴する。
これはいつものルーティンの作業であり、ホノオ達真善美高校美術部員が皆心がけていることなのだから、どんな感想も受け容れる覚悟なのである。
「まぁまぁだな」
ホノオは、愛想のない偉そうな感想を述べるゴリオを静かに見つめていた。
まぁこんなことは慣れっこなのだろう。
未来人達は一歩身を引いたところに立って、俯瞰で状況を観察していた。
作画を終えた彼に嫌味を言い続けるマホにも、腕を組んだまま黙ってデッサンを注視するリンゴにも、少しだけ満足そうなゴリオにも視線を注いでいた。
とりわけホノオの指先の動きを見つめていた。
その指先に、自信がグッと込められているとシノは思った。
「ねぇホノオ君。なら、次はアタシを頼むよ」
そう告げるリンゴに、シノはちらりと目をやった。
長身でリラックスしたデッサン映えのする肢体。
ホノオはリンゴの刺すような視線にひとつ頷くと、おもむろに描き始めた。
この3年間のスランプは、さっきのシノのデッサンで乗り切ることができたはずだ。
だから、もう何ら不安なことはない。
何だって思いのままに描くことができる、彼はそう心の中で強がっていた。
リンゴはホノオの心の葛藤を間近で見て、次第に柔らかい表情に変わっていく。
それでシノは勘付いた。
「ねぇショウタ。ホノオさんとリンゴさんってどういう関係?」
ここでホノオとリンゴ、マホの3人が、実は姉ヨウのお絵描き教室で共に学んだ仲であると初めて伝えられた。
そのことは、事前に渡された資料には全く記載されていなかったのである。
もしかして、他にも意図的に未記載にされたデータがあるのかもしれない。
これはマズい。かなぁ~りマズいじゃんっ!
シノは、思わず大粒の冷や汗をたらりとひとつ垂らすのであった。
更新日:2022-08-25 19:57:28