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no title

 ある朝、カーテンを開け放しておいた窓からの陽射しで僕は目を覚ました。僕にしては珍しく仰向けで行儀よく寝ていた。それなら部屋の天井がまず初めに目に飛び込んでくるはずだった。しかし、視界に映ったのは僕の眉間にピストルの狙いを定めた黒い目だし帽を被った男だった。

 朝、起きてすぐの冴えない頭でも現実を理解するのに時間はかからなかった。もしかしたら人形なのかもしれないなんて思ったけど、明らかに息遣いが聞えるし、ピストルを握りしめた手も小刻みに震えていたから、人間には違いないと判断した。僕が大学で所属しているレスリング部のドッキリだろうか? そんな一瞬の妄想も巡らせたが、僕はこの状況をどうやり過ごせば良いのか何も分からなくて、次第に思考が上手く出来なくなっていた。ただ僕は目を見開いたまま、じっとしていた。

 やがて覆面の男が口火を切った。

「おはよう。私は単なる人間だ。どこにでもいる人間だ。だけど君の部屋に勝手に入り、こうして銃を君の眉間へ狙った瞬間に私は人間でなくなるようだ」

 覆面の男はぼそぼそと静かな口調で喋った。でも、その言葉の意味が僕には理解ができない。僕はとにかく誰か助けを呼びたかったけど、スマホは手の届かない場所にあるし、一人暮らしのアパートには僕以外に誰もいないのだ。それに隣の住人にまで聞えるくらいの大声を出したら僕はそのピストルで頭を撃ちぬかれるかもしれないという不安がよぎった。僕は黙り込んだまま覆面の顔を見つめ続けた。

「私は罪を犯してしまったようだ。確実にね。このまま私が何もせずに外に出ても、おまえは警察に連絡をする。そして私はいずれ捕まる。反対にここで君を殺したとしよう。おまえは何も出来ないから、もし私が捕まるにしても時間はかかるだろう。ちなみにこの銃は本物だ。怖がっていいぞ」

 語尾が少し浮つき、覆面の男はせせら笑った。一体、この人間は僕に何をしたいのか分からない。精神に異常があるとしか思えなくて、恐怖が体の内から沸き出して全身の震えに変わっていた。

更新日:2022-08-15 10:29:39

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