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第9話 1954年食堂vol.1

挿絵 800*534

母にこの夢の話をしたら、「まるで隣町にあったデパートみたいね。」と言われました。そのデパートは、私が生まれた頃にはさびれており、まもなく倒産したらしいのですが、私は行ったことがないそうです。食堂名についていた年代が1954年だったか1945年だったかうろ覚えなので、とりあえず1954年にしています。

† †

私は迷子になってました。迷子になるには恥ずかしい成人なんですけど、どこに向かおうとしていたのかさえ忘れてました。
キョロキョロとあたりを見回していると、40歳くらいのウェービーな髪をうなじ辺りで結んだ、優しい顔の男性が声をかけてくれました。格好はバーテンダーのような感じです。タバコを吸って休憩していたようでした。

男性「どうしたの?」

私「迷子になりました」

男性「どこに行くの?教えるよ」

私「買い物だった気がするけど、わかりません」

男性「そっか。じゃあ、ついておいで」

男性はタバコの火を消すと歩き出したので、私は後をついていきました。
ベージュの落ち着いた感じの百貨店でした。中に入ると、とても涼しくて壁は大理石、ガラスのドアの取っ手は金色です。男性は、廊下に敷かれた赤い絨毯の上をどんどん歩いていくので、追いかけると、1954年食堂と書かれた落ち着いた雰囲気の喫茶店がありました。
(この人の年齢か、お店に関係する年かな?)
中に入ると、国籍がバラバラな人たちがたくさんいました。
私と歳の近そうなアジア人の女性、リンという名前だったと思います。その女性が、男性を見て笑いました。

リン「マスター、マタ 人間ヒロッタノ?」

マスター「あはは。迷子みたいだったからさ、つい拾ってきたんだ。仲良くしてくれよ」

マスターと呼ばれた男性は頭を掻きながら答えつつ、カウンターに入っていきました。入り口に取り残された形になった私に、リンさんが声をかけてくれました。

リン「コッチ、オイデヨ。たくさん、話シマショウ!」

私「はい。失礼します」

遠慮がちにリンさんの横の席に行きました。

リン「エンリョ、イラナイヨ」

それから、リンさんが色々話してくれました。東南アジアの国出身だとか、家族が何人いるとか。もちろん、色んな国籍の人たちも片言の日本語で話しかけてくれました。途中で何人かは仕事だということでお店を出ていきました。
あっという間に時間が過ぎて一息入れていると、ふと、リンさんの表情が寂しそうな様子だったので、声をかけました。

リン「何モナイヨ」

何かを隠しているような表情でしたけど、深くは聞けませんでした。
その後、リンさんは誰かに殺されます。
(あんなに優しいリンさんがなぜ?あの時もっと話を聞いていたらよかった。初めて会ったのに大好きになったリンさんを誰が?私が引き留めていたら違ったのかな?)
行き場のない感情と後悔の念が押し寄せ、ぐちゃぐちゃとした状態のまま、
目が覚めました。


<イメージ画像 コスモスと観覧車(フォトモンタージュ)のフリー素材 https://www.pakutaso.com/20160308075post-7260.html>

更新日:2022-07-28 09:33:39

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