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 次に那由多がたどりついたのは、まさに御仏の世界だった。いずこからともなく琴の音が聞こえ、沙羅双樹の花が咲いている。虎や獅子が周囲にいても、いずれも従順で、那由多を見ても襲ってくる気配さえない。やがてまばゆい光とともに仏が姿を現した。
「那由多よ、そなたの魂の位は高い。よってこの極楽に永住することを許可しよう」
「それはありがたい仰せ。なれど一つだけお聞きしたいことがござる。私の愛した女阿儒は、今後いかがあいなるのでございますか?」
「あの女か? あの女なら幾度も輪廻転生を繰り返し、永久に苦悩するであろう。現世が王女なら次は貧しい身分の女であるやもしれぬ。いずれにせよ女に生まれた者の悲しみ。永久に、この極楽界に転生することはかなわぬ」
「私は、どうしてもあの女の側にいたいのでございます。例えこの極楽世界におられずとも! 仏よそれは許されぬのでござるか」
「もし、どうしてもそなたがあの女の側にいたいと申すなら、そなた自身が、次は女に生まれかわるより他道はないのだぞ」
「それでもかまいませぬ。阿儒のそばにいられるなら」
 必死につめよる那由多に、さしもの仏も困惑の色をうかべた。
「そなたが女人に生まれ変わるということは、そなた自身が永遠に極楽往生の道を閉ざし、永久に輪廻転生の苦しみを味わうということなのだ。その覚悟はあるのか!」
「一切承知のうえであります」
 次の瞬間再び光が那由多を包みこんだ。

 
 ……玉は六條家のお屋敷で、ようやく夢からさめた。蝋燭の灯が、ほのかに部屋をてらす中、側近くで満子が寝息をたてていた。
 玉は夢の内容をほとんど忘れていた。しかしその胸中には、強い決意のようなものが宿っていたのである。

 
 翌日玉は満子の見守る前で、有純にはっきりと自分の決意したことを伝える。
「縁談の件はお断りいたします」
「それでは今後、そなたはいかがいたすのじゃ?」
「私はいつまでも、どこまででも満子様についてゆきとうございます」
「しかし満子についてゆくということは、この京を捨て、俗世をも捨てるということなのじゃぞ。こなたにその覚悟はあるのか?」
 有純は餅を食いながらも、困惑の色を浮かべた。
「そうじゃ玉、なにもそこまでせずとも……」
 と満子もまた動揺する。
「お供がかなわぬと申されるなら、私はすぐにでも自害いたしまする!」
 と玉はきっぱりといってのけた。こうして玉は満子と一連托生の道を選択したのだった。





更新日:2022-08-16 23:44:48

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