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 ある日の夢の中で、羊が僕の幸福を食べていた。僕の幸福は羊の前で物質化して置かれ、羊はそれをさもおいしそうに食べていた。青々とした広い草原の中で音を立て、時々、小さな器の水を舌を使って器用に飲む羊を僕はじっと見つめていた。

 羊は僕の視線に気付いたらしく顔を上げ、
「あたしは、あなたの幸福を食べる。他に食べる物がないんじゃない。生まれた時からそう。だから、あたしは今日も食べる」

 表情はわからない。動作も食べる行動以外あまり見せない。従って感情は分からない。だけど、少しだけ恥ずかしがっているように思えた。

 僕は頷いて言った。

「おいしそうだね。僕も食べたいな」

「あなたに与えられる物なんてない。これはあたしのだから」

 再び下を向いた羊は器の水を舐めた。

「あたし、あなたと暮らしてみたい。どこに住んでるの?」

 幸福を齧って、咀嚼したものを飲み込んだあと、羊はまた次の幸福を食べながら聞いてきた。

「君は動物だろ」

 僕は羊に侮蔑を込めて言ってみた。

「ふうん、もう準備はできてるけど」

更新日:2022-07-03 16:26:28

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