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 「あいつらのご満悦な顔見た!? いまだにあんなのが面白いと思ってんの! 中学生かよ!」
 高倉玲が怒りを爆発させる。
 「あんたも派遣でしょ? これからずっとあれが続くから。覚悟しといた方が良いよ」
 「君も同じか」
 「そう。だからあんたと私を組ませたってわけ。仕事なんか教えるつもりねーってこと。私がこの署に来て覚えたことが何か分かる? 散歩と署内の人間関係だけだっつの!」
 なるほど。それで若すぎる教育係か。
 「あの課長の差し金なのか?」
 「ないない。課長にそんな主体性ないから。課長はただの操り人形。裏で糸引いてるのは署長だよ。八方美人で誰にでも良い顔しときながら、腹ん中は真っ黒ドス黒い古狸!」
 高倉玲は吐き捨てるように言ってから、本当に唾をペッと吐いた。
 署内の人間関係を把握しているというのは本当らしいので、もっと聞いて見る。
 「そういえば二課に入って直ぐ、丸坊主の男に絡まれたんだが……」
 「グラサンの禿? 後藤でしょ? あいつはかなりマシな方よ。ちょっかいはかけて来るけど卑怯なことするタイプじゃない。さっきも一人だけ笑いもせずに突っ立ってたでしょ。少なくともああいう事する人間じゃないから。
 最悪なのは茶髪の相田って奴。粘着質で最低な男よ。さっきもあいつが煽動してたの気付いた? スポーツマンみたいな見た目してるけど、爽やかさなんて微塵もない糞野郎」
 激しいボディランゲージと情感こもった口調によって、高倉玲は相当な恨みを表現する。
 気づくと署の外に出るところだった。自動ドアが開いて、白い光が目に飛び込んでくる。
 「ところで呼び名どうしよっか? 名前が分かるような呼び方じゃダメって言うよね」
 腕を頭の後ろで組み、んーッと伸びをしてから、高倉玲が提案してきた。
 刑事はその職務上、出来る限り名前を伏せた方が良いとされる。そのためにニックネームで呼び合うのが慣例だ。といっても普通はそんな奇抜な渾名は付けない。タカとかマツくらいが精々だが……
 「私はマルで良いよ。レイだからマルね。あんたはぁ~……勇治のユウは勇気の勇?」
 「そうだけど」
 「じゃあ近藤で」
 「最期には斬首されそうな名前だな」
 「良いじゃん。今の警察にはピッタシじゃん」
 上機嫌そうに"マル"は肩をぶつけてくる。話から察するに、呼び名を付け合うのも初めてらしい。
 「近藤は歳いくつなん?」
 「27」
 「私は25。言っとくけど、あんたの方が年上でも、私の方が刑事は長いから。そこんところ心得といてよね」
 いきなり何を言い出すのかと苦笑する。
 「敬語で喋れってことですか? センパイ」
 「別にぃ~。タメ口で良いわよ~。私って心広いから」
 高倉はいかにも誇らしそうに胸を叩いた。どんな思惑で組まされたとしても、後輩が出来たことが嬉しいようだ。
 「で、これからどうするんだ? マル先輩」
 「まずは歩き回るくらいしかやることないかな~。その呼び方キショイから止めろや」

更新日:2022-07-03 14:25:41

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